ベトナムIT企業視察等で感じた、多様性の受容と異文化コミュニケーションの重要性 ~ “ビジネスマン” 白洲次郎の「プリンシプル」を貫く生き方を目指せ~

投稿者:小川 悟

2009/02/28 22:28

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大手求人サイトの限られた情報をもとに就職活動をしていること自体が小さなことに感じるはずです。「どんな会社に入るか」ではなく、「入った会社で何をするか」の方がよっぽど大切だということを実感します。(~株式会社ブレインワークス代表取締役・近藤昇氏)

/『ベトナム成長企業50社 ホーチミン版』(ブレインワークス編著)

 

先ほど、NHKで放映されていたドラマ、「白洲次郎」の第1回放送分を見終えました。

 

■白洲次郎 | NHKドラマスペシャル

http://www.nhk.or.jp/drama/shirasujirou/

cf.白洲次郎 「プリンシプル」を貫いた生き方に学ぶ〈日経BPネット〉

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090225/134668/

 

麻生政権の支持率低下に拍車をかけた中川前財務相の失態を報じたニュースから数日が経ち、改めてファシリテータ不在の混迷の時代に生を受けたことを実感する今日この頃、世論という見えない声のリクエスト投票を受けたかのようなタイミングで、上記のドラマ(全3回)が始まりました。

 

「今の政治家は交通巡査だ。目の前に来た車をさばいているだけだ。それだけで警視総監になりたがる。政治家も財界のお偉方も志がない。立場で手に入れただけの権力を自分の能力だと勘違いしている奴が多い」

/『白洲次郎 占領を背負った男(下)』(北康利著)

 

終戦後、敬愛する吉田茂首相の側近として活躍し、晩年、終の棲家となった町田市鶴川にある武相荘(ぶあいそう)に吉田茂の形見としてソファーを譲り受け、最後まで大切にしたというエピソードを持つ白洲次郎の遺した言葉が、今となってはとても皮肉な印象を受けます。

 

さて、決算期末を次月に控えた2月、社内でも様々なことがあり、多忙を極めました。幾つか大きく印象に残った事柄を整理して、この場をお借りしてお伝えしたいと思います。

 

1、ベトナムIT企業視察

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写真:ホーチミン市街

この件につきましては、以前に当社常務の木村がコラム(「ベトナムIT企業視察出張所感」)に書いているので、詳細はそちらをご覧頂ければと思います。

 

取引先様からお声掛け頂き、2月10日から13日の間、常務と私の2名でベトナムIT企業の視察のため、ホーチミンを訪れました。私自身、訪越するのは初めてのことでしたが、会社として公式に海外出張が認められた当社初の事例として大変印象深い仕事となりました。

タンソンニャット国際空港に到着したのは10日の23時頃でしたが、帰国する身内を待つご家族の方や、ツアーを受け入れる宿泊施設の関係者の方などがごった返し、ものすごい熱気で迎え入れられました。話を聞くところによると、新ターミナルは2007年に日本のODAにより完成したばかりとのこと。私たちが2泊の間お世話になったホテルはホーチミン中心部にあるのですが、空港から僅か10km程のところにありました。

 

翌朝、数社の企業を回らせて頂きました。どの企業でも感じ、驚いたことなのですが、とにかく働いている社員の年齢が若いこと。そして、誰もかれもが皆、素直で誠実そうな方ばかりという第一印象でした。ベトナムの人口は8500万人超で今も増え続けており、2005年から人口が減少してきている日本とは対照的です。人口ピラミッドで対比してみても、ベトナムのそれはちょうど日本の戦後、高度成長期を迎えてゆく時期の分布と似ており、そうした若くて優秀な人材に目を付けて、大企業の多くでは数年前からオフショアの最適地として、「タイムマシン経営」(cf.孫正義氏)を行うかのようにベトナムへの投資が進んでいたという話を聞きました。特に昨今は様々な経済的要因で急激な物価上昇が起きているようで、まさに国全体がベンチャー企業のような印象を受けました。それから、現在私と同じ30代の人たちはベトナム戦争中に生まれたのかと考えると、戦争を知らない私としては、それがどのような感覚なのか想像が付きませんでした。

 

また、「日本人が勤勉である」とあまり言われなくなって久しいですが、ベトナム人の勤勉さはひしひしと伝わってきました。昨今、日本との仕事も増えてきたとのことで、日本語を学ぶベトナム人が増えているとのことでした。実際、訪問した企業にもコミュニケーターと呼ばれるいわゆる通訳の担当者を置いているところが多かったように思います。企業内研修でも日本語教育やビジネスマナー研修が多く行われているようで、仕事を受注するために語学を学ぼうという意識は日本人よりも強いのだと感じました。とは言っても良い面ばかりではなく、先ほど「国全体がベンチャー企業」のようだと比喩しましたが、まさに交通機関やインターネット回線等のインフラはもちろんのこと、税法など国としての整備も発展途上段階で、そこに集う人々のものづくりの技術(品質管理等)やサービス業の接客技術なども日本と比べると遅れている側面があることも否めないとのことでした。しかし、自身の仕事の成果が家族や企業、国の発展に繋がるものであればという姿勢で働いている人が多いのも事実でした。

 

反面、私たちはどうでしょうか。多くの人が、いくら不景気だとはいっても、生活必需品以外のものを購入――、つまり「必要」によってではなく「欲望」によって消費することもできていると思いますが、それでも精神面ではなかなか満たされず、自身の働く目的、場合によっては生きる目的さえも見失ってしまう人も増えてきたのではないかと思います。

 

文化と文明の観点からすると、日本は孤立した国家である。他のすべての主要な文明には、複数の国が含まれる。日本が特異なのは、日本文明が日本という国と一致していることである。

/『文明の衝突と21世紀の日本』(サミュエル・ハンチントン著)

 

物質主義の成れの果てだと切り捨ててしまえばそれまでですが、「想像できないものは実現できない」という見地に立って考えると、今回の視察で、日本にいたままでは決して知る由もなかった日本の原風景を見るようで、私にとってはイマジネーションの良い源泉となりました。

 

2、日本ウェブ協会の活動の一環として、中小企業家同友会・目黒支部の勉強会を視察

 

写真:2009年2月3日、日本ウェブ協会の「W2Cサロン」にて

 

cf.東京中小企業家同友会目黒支部 ブログアーカイブ  2月例会レポート

http://meguro.office-kotou.co.jp/new/551


W2Cサロンは、当社も会員となっている日本ウェブ協会の主催により、株式会社IMJモバイル様の地下スペース(IMJサロン)をお借りして、ほぼ毎月開催されている異業種交流会の場のようなものなのですが、私は2月3日に一度顔を出させて頂きました。そこで、日本ウェブ協会の森川理事長や、参加されていた企業の経営者様などからお誘い頂き、東京中小企業家同友会目黒支部で19日に開催された勉強会に参加して参りました。森川理事長の講演タイトルは、「インターネットを使って経営改善!経費削減!」。ご参加されていた各中小企業のご経営者様方は、ほとんど全ての方が終業後の時間だと思うのですが、熱心に参加されては活発に意見交換をされていました。講演の後のグループセッションでは、私も一テーブルを担当させて頂き、中小企業経営者様の生の声を拝聴させて頂くことができました。

 

普段、中小・ベンチャー企業向けにWebコンサルティングをご提案している私たちではありますが、こうした勉強会に参加することでより一層、中小企業にとってインターネットをどうビジネスにうまく活用すれば良いのかを知ることが、とても重要なことなのだということを強く感じました。

 

ちょうど去年のこの時期もコラムの中で、電通の発表した日本の広告費について触れたことがありました。あれから1年、2009年度はインターネット広告の出稿高が、ついに新聞のそれさえも抜き去るかどうかとまで言われています。

 

cf.

■電通「2008年日本の広告費」発表、総広告費は前年比4.7%減で7兆円割る(MarkeZine,2009年2月23日)

http://markezine.jp/article/detail/6671

■ユーザーの4割がネットメイン、利用メディアに関する調査(japan.internet.com,2009年2月5日)

http://japan.internet.com/research/20090205/1.html

 

この度の勉強会への参加で、ますます中小・ベンチャー企業様向けのWebコンサルティングのノウハウを蓄積し、付加価値を提供できるような組織づくりをしていかなくてはならないといった使命を感じました。

 

3、各種研修への参加を通じて

2月20日は原価計算・コストマネジメントに関する終日研修、21日・22日は土日にも関わらずどちらも終日リーダーシップやマネジメントに関する研修があり参加してきました。

 

どちらの研修でも、講師の方やファシリテータ役の方が発していたのが、「知る」と「できる」ということとは、知の習熟度としてはレベルがまったく異なるということです。つまり、ある程度社会人経験を積んでくるようになると、おおまかなビジネス用語の意味や、本質的な意義のようなものは頭に入ってきているので、時にその手のセミナーなどに参加しても、「ああ、この内容なら知っている」とタカをくくり、結果何も得られないといったケースもしばしば見られるようになります。ところがそうした人に限って、いざ実際の仕事上で実務能力を問われる段階になった際に手も足も出せず、机上の空論だけを並べ立てることに終始せざるを得ないといったことも少なくありません。要するに再現性のない、実行することまではできない、うわべだけの知識だったということになります。

 

この度の、特に後者のリーダーシップ・マネジメント研修では、当社の管理職クラスの者が参加して行われたのですが、ランダムでグループに分かれてセッションし合う中で、自身では気付かない自身のウィークポイントに気が付くことができたり、逆に相手の強みを発見して認識させてあげることができたりと、大変内容の濃い2日間となりました。

 

以上、個人的には大きなイベントが複数重なった月となったのですが、ベトナムでは改めてベンチャースピリットと、それから異文化コミュニケーションの重要性を、中小企業ご経営者様の勉強会ではインターネットビジネスの重要性を、各種研修ではリーダーシップ・マネジメントの重要性といったように多くのことを学んだ月となりました。総じて、来る未来に向けて、多様性の受容(ダイバーシティ,Diversity & Inclusion)の重要性も示唆されたような1か月となりました。

 

最後になりますが、リーダーシップ・マネジメント研修でファシリテータ役を務めてくださった講師の方もおっしゃっていました。

 

「自分の人生は、自分にしか責任が取れない」――。

 

要するに、いくらそのとき楽だからといって、自分に嘘を付いてやり過ごしたとしても、そのツケはいつか自分にまわってくるという意味の内容です。

それはまるで、スキーでもスノーボードでもそうですが、雪山で誰しも一度は経験のある体験――すなわち、急斜面に怯えて山側にしがみつこうとすればするほど、ますます板のエッジがきかずに斜面の下まで滑り落ちてしまうのではないか?という転び方をしてしまう――に近い感覚を覚えます。勇気を持って谷側を見ようとすれば自然とエッジがきいてそこに静止することができるのに、因果とは不思議なものを感じます。

 

ここで、冒頭で引き合いに出させて頂いた白洲次郎の言葉が思い出されます。

 

プリンシプルはなんと訳してよいか知らない。原則とでもいうのか。

/『プリンシプルのない日本』(白洲次郎著)

 

このプリンシプルは「原理原則」――、他にも「主義」などと置き換えて言われることもあります。日本の「武士道」にも近いように思いますが、若き日に英国ケンブリッジ大学で学んだ白洲次郎にとっては「騎士道」の方が近い考え方なのかもしれません。

 

「正しいという字は、一つのところに止まると書く」と言っては自身の良心を信じて主義を貫いた白洲次郎の生き方こそが、先行き不安な現代社会を照らす道標となるのではないかと強く感じました。 

 

cf.白洲次郎と白洲正子展(松屋銀座)

http://www.matsuya.com/ginza/topics/080923e_shirasu/

 

今期も残すところあと1ヶ月。昨年期初に掲げたゴールビジョン達成に向けて自身の「プリンシプル」を貫いて、全力で取り組んでいきたいと思います。