「楽天Webディレクション&デザイン2009」に参加して ~「坂の上の雲」をつかむように、自社の明るい未来を想像した一日~

投稿者:小川 悟

2009/11/28 23:36

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文明は変わっても、人間の中身は何も変わっていないということなのだろう。

江戸時代まで遡らなくても、ちょっと後ろを振り返るだけで、自分が現在越えようとしている壁を乗り越える方法の、少なくともヒントくらいはいくらでも見つかる。そういう目で見れば、歴史は人間の数限りない試行錯誤の保管所のようなものなのだ。

/『成功の法則92ヶ条』(三木谷浩史著)

今日は、会社の休みを利用して、楽天本社のある品川シーサイド楽天タワーで行われた楽天Webディレクション&デザイン2009|教科書では教えてくれないウェブサイト作り」(RWDD2009)に行ってきました。まさに、先日発売された「週刊ダイヤモンド」では、「百貨店、コンビニを抜いた通販&ネット販売の魔力」として、「勝ち残るのはどこか? 楽天 VS アマゾン VS ヤフー」ネット通販3強比較などを特集していた時期だったので、ますます興味が高まっていたところでした。

同じCS本部の松谷と待ち合わせたのですが、現地で他のスタッフ数名にも出くわし、皆、自己啓発に勤しんでいるなと感じたものでした。今回のコラムでは、このイベントの感想と、そこで得た気付きを備忘録がてらまとめてみることにしたいと思います。松谷は昨日・一昨日に開催された宣伝会議 プロモーション&メディアフォーラム2010にも出向いているのと、今回のセミナーでも私とは別のプログラムを聴講しているので後々共有をもらおうと思っています。

 

このイベントは、今の楽天が創業後12年を経て、実際に「成功」までたどり着いた軌跡を実例をもって公開するという主旨のもので、お昼過ぎの13時からは楽天の取締役常務執行役員を務められる元スクウェア社長の鈴木尚氏を進行役として、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏と、ドワンゴ取締役で楽天技術研究所フェローを兼任される夏野剛氏とのトークセッションで幕を開けました。楽天が「創業以来、初めて行う」と言うくらい、”競合他社”を含む不特定多数の企業・個人に向けたオープンなイベントにあって、幸い私はこの対談をかなり前列で拝聴することができました。

この場ではあまり詳しくは書けませんが、かつてNTTドコモで史上最年少執行役員になった「iモード」の立役者、夏野剛氏の軽快、かつユーモア(毒舌!?)溢れるトークに思わず吹き出すのを抑えきれず笑い声を漏らす聴講者も多くいらっしゃいました。

cf.iモード10周年、ビジョン達成に向けた不断の努力こそが市場開拓・顧客創出を実現する成長エンジン ~第8期末社員総会を終え、今期を総括する~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2009/03/post-28.html

他にも、最近「Edy」の運用会社ビットワレットを買収し、いわゆる「楽天経済圏」を構成する47の事業の中から数名の現役社員の方が講演を行うプログラムと、少し前に募集のあったバナーのデザイン案とWebページの改善案を募集したアワードの表彰式、それから最後には13Fのカフェテリアで行われた懇親会と、盛りだくさんのイベントでした。

懇親会では楽天執行役員の方が気さくに話しかけてきてくれたり、偶然私たちがいたテーブルには、この業界にいれば誰もが知っている株式会社アイレップSEM研究所の渡辺隆広氏や辻正浩氏がいらっしゃってご挨拶させて頂いたり、はたまたパートナー企業の方とバッタリ出会ったり、懇親会後も寒空の下で様々な会社の方々とお話ができ、大変充実した一日を過ごすことができました。このような機会を与えて頂いた楽天の社員の皆様方に、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。

  せっかくですので、備忘録を兼ねて、私が聴講させて頂いたプログラムを列挙させて頂きたいと思います。

1. 14:05~ 【前】「楽天トラベル」つぶやきながら見えてきたTwitter活用3つのポイント、【後】楽天グループ、RIA表現への取り組み

2. 14:40~ 月間50億PV、社内ユーザー1,000人のアクセス解析で分かったこと

3. 15:20~ 楽天証券Webサイトフルリニューアル成功事例

4. 15:55~ 「楽天ブックス」ユーザー中心設計アプローチの実践と商品検索UIの改善

5. 16:45~ 楽天、動画メディアへの取り組み「動画共有とショッピング」

6. 17:20~ 常に改善、常に前進 変わり続ける楽天市場トップページ!

プログラムのタイトルだけ見返してみても、各プログラムの講演時間は短いながら、楽天の内部でタイムリーに行われている施策をオープンにしようと試みた講演だったかがご想像できるかと思います。

 

1つ目の講演では、昨今書店などでも関連書籍が並んでいる「Twitter」を用いた楽天トラベル運営スタッフの活用術の紹介。聴講している方々がタイムリーにその様子を「ツイート」(つぶやき)したりする場面も見られました。面白いなと感じたのは、iPhoneユーザーの比率の高さ。街中では見られないくらいの所有率で、こうしたイベントに参加される方々の情報感度の高さに驚きました。私も同僚が使いこなしているのを見て、最近でこそ携帯電話からの新規ユーザー登録の対応を果たしたTwitterですが、UI(User Interface)やインタラクティブな操作性といった部分ではiPhoneの方が勝っていると感じました。Twitter普及の背景には諸々有名なエピソードもありますが、iPhoneのようなUX(ユーザーエクスペリエンス)を意識した、また、(もはや死語になりかけていますが)いつでもどこでも情報の受発信を可能とした「ユビキタス」なハード機器が与える影響も少なくないと感じました。まさに、これから年末年始商戦に突入する時期です。消費者を引き寄せる力を持った都市部などで、一体どれだけの企業や店舗がTwitterを活用した販売促進(タイムセール等)を手掛けるのか、個人的に楽しみだったりします。

 

他にも楽天が、今まで自社提供サイト(サービス)のアクセス解析を行うにあたり試行錯誤してきた――、市場に多く出回っているアクセス解析ツールの中から自社に必要なツールがどれであるのかを見極め全社導入まで至っているのかといった――エピソードが聞けたり、47という複数の事業を持つ楽天が(アクセス解析における)「標準化」と「情報共有」を課題としていたり、「サービスに応じたKPIを設定する必要性」を感じて動いてきた経緯があったり、今後目指すフェーズとして「解析の底上げ(事業やサービスによって解析パターンを作り、共有・教育する)」を検討していたりと、意外と身近な悩みがあったことが印象的でした。もちろん、当社と比べれば規模も精度も技術力も雲泥の差だとは思うのですが、講演を聴く前までは、全く想像もできない難解なプロセスをたどってきて今のような巨大な産業が形成されていたのかと思っていたので、ふとそのように思いました。このようにアクセス解析に力を入れている、あるいは別な角度から見て”力を入れざるを得ない”楽天の動きに気を配ることで、私たちのサービスもストレッチされる部分もあるのではないかと思いました。

 

その他、Webサイト改善の現場にあっては、サブテーマにもありましたが「教科書では教えてくれない」ことが多々あるようで、楽天側も、常に地道な「テスト」の繰り返しの結果が今の(最良の)状態であるというようなことをおっしゃっていました。

6.の講演で話されていましたが、現在「楽天市場」の契約企業数は約10万社、出品中の商品点数は約4600万点にのぼります。月次流通額は600億円、年間注文件数は8900万件という市場規模だそうです。講師の方がおっしゃっていましたが、この8900万という数字、平均して0.3秒に1回の注文がある件数となります。私たちではとても想像がつかない流通量ですが、現在のトップページは月間490万PVあるそうで、このトップページの改善を専属で担当するスタッフが5名もいらっしゃるとのことでした。

「え、トップページの改善担当だけで5人もいるの!?」と思った瞬間、すぐに説明がありました。小さな改善も含めて、地道な改善活動を続けた結果、13億円相当の改善ができたそうです。年間で13億円の付加価値を生み出せるのなら専属担当が5人くらいいても当然、というわけです。 

 

冒頭で書いた、三木谷氏と夏野氏のトークセッションの中でも、三木谷氏は「特別なことは何もしてきていない」、ABテストなど地道にPDCAを繰り返しながら、改善のための努力をしてきただけとおっしゃっていました。裏を返せば、私たちなどであれば尚更のこと、こうしたプロセスをすっ飛ばして「いきなり成功」などとはいかないのだなと痛感させられました。 

一通り講演を聴いた後で、先述した「RWDD2009 アワード」の表彰式を見ながら、表彰された方々に対して寄せられた選考理由を聴くときになってようやく、当イベントの大きな主旨というか意義のようなものに気が付いたような気がしました。そこには奇を衒った技術やセンスなどはありません、あるのは「楽天市場」創設当時からのコンセプトを受け継いだ精神で、加盟する店舗さんの売上をいかにしてあげるか?ということを意識して作られたバナーだったり、改善案を出された方が表彰されているのです。そういった意味で、このアワードがプログラムの中にしっかりと設けられていたことには、主催者側の意志の一貫性を読み取ることができたように思いました。

 アワードの後は、例の懇親会でした。おいしいお酒と食事を、無料でこんなにして頂いてよいのだろうか――、と感じながらも、多くの方とお話させて頂き、スタートからラストまですっかり楽しませて頂きました(汗)。

 

最後になりますが、以前書いたコラムを幾つか、改めて再掲させて頂きたいと思います。

■クロニクル「インターネット業界10年史」 ~まるでビッグバンのように、超高圧な一点の意志からその広大無辺な市場は生まれた~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2008/02/10.html

■ インターネットがもたらす第三の開国の夜明け前 ~2009年、横浜開港150周年~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2008/07/post-12.html

■iモード10周年、ビジョン達成に向けた不断の努力こそが市場開拓・顧客創出を実現する成長エンジン ~第8期末社員総会を終え、今期を総括する~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2009/03/post-28.html

 

10年と少し前までは、インターネットという”市場”は、まだ極小さな一点のわだかまり程度に過ぎなかったように思い返します。その何もなかった”土地”(WWW)に鍬を入れ、現在のように後発の企業が無数に参入してくるような大きな市場を開拓してくれた方々の中のお二人が、まさに冒頭で書いた三木谷氏と夏野氏であったのではないかと思います。そして、10数年を経た現在でも、現場は常に改善、ムダを省いて利益を生み出す不断の努力を続けられています。私企業ですから、一口にムダを省きたいといって「事業仕分け」をしてもらうわけにはいきません。場合によって外部のコンサルティングを導入することはあっても、すべて自社で解決していかなくてはならないのです。そして、今ではより大きな市場を目指して世界に目を向けられています。

根本的な問題はTWAが赤字を継続していることではなかった。困難な現状の事態にもかかわらず、航空会社は、適正に経営されれば利益をあげることもできる五億ドル相当の資産だった。

/『ハワード・ヒューズ』(ジョン・キーツ著)

そして二番目のコラムでとりあげた「第三の開国」――、つまりインターネットの日本上陸は、情報開国元年と呼ばれた1994年から15年の時を経て、ほぼ日本のどこにいてもインターネットで繋がってさえいれば、通信を介した「購買」という消費行為を行うことができるようになりました。

明日はまさに、前宣伝ばかりで期待を膨らませるだけ膨らませ、首を長くして待ちわびたNHKのスペシャルドラマ坂の上の雲が放映開始となりますね(iPhoneをビジネスにも活用する企業導入事例が増えてきていることから、「iPhone」=「クラウド・コンピューティング」!?の図式にかけてみたり)。

三木谷氏が「楽天市場」を、夏野氏が「iモード」を、まさに「坂の上の雲」をつかむようにして築き上げてきたある種の”近代”を、今度は私たちの世代がつかめるように努力してゆく必要があるのだなと思えました。

cf.「第6章 iPhoneが企業のクラウド化を加速する – iPhoneショック2」(2009年8月20日,ITpro)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20090810/335418/

※「米国では中小企業の1割がiPhoneを採用!?」といった記事が読めます。

以前、「社員総会を終えて今期ゴールビジョンを共有する ~古典に学ぶ、現代社会を生き抜くための知識・見識・胆識~」のコラムで土方歳三を引き合いに出しましたが、今年から来年にかけても、龍馬伝など、多くのビジネスマンにとっては今まで以上に楽しみな大河モノのドラマが待ち受けていますね。折しも雑誌「プレジデント」の特集は、心の雲が晴れる!司馬遼太郎と幕末・明治の人物学」 でした。

今回の「楽天Webディレクション&デザイン2009」も含め、過去に日本を切り開いてきた先人たちの思いや築き上げてきたものに触れることで、後続する私たちも大きな力を手にすることができるように感じることができた一日となりました。

この場をお借りして主催関係者の方々、及びお名刺を交換させて頂きました皆様方に改めて御礼申し上げるとともに、本コラムを締めくくりたいと思います。