「2007年問題」をポジティブ・シンキングで捉える。

投稿者:小川 悟

2007/10/09 00:00

この記事は約5分で読むことができます。

昨年から今年にかけて、「2007年問題」という用語を多く目にするようになりました。

「2007年問題」とは、団塊の世代(1947年から1949年にかけての戦後第一次ベビーブームの間に生まれた人々を指して言われる言葉で、堺屋太一氏が1976年に書いた予測小説『団塊の世代』で用いられるようになった用語)の定年を迎え、一斉退職によって引き起こされる諸々の問題のことを総称して表す言葉です。

現在60歳である人が定年により退職をするとなると、まず最初に想像することは勤め上げた企業から退職金が支払われることです。これは日本全体で見るとかなり多額なものとなると思われます。日本の高度経済成長に合わせて70年代に大量採用をし、その後のバブル崩壊や平成不況に対してリストラや地方転勤、早期退職制度導入など企業再編による善後策でやっとのこと乗り切ってきた大手企業にとっては再び財務面による打撃を受けることになるのではないでしょうか。

同時に経験を積んだベテラン社員が引退することでもあり、団塊の世代採用後に消極的な採用活動を行ってきた企業であれば、そうした採用活動が生んだいびつな組織体制の中、現在“売り手市場”などと言われ、ただでさえ難しい採用活動において極力有能な人材の獲得に躍起となっている風潮はあるものの、教育リソースの不足の点では採用活動には苦渋の選択を迫られている時期ではないかと想像します。特に今まで売上至上主義で成長してきた企業においては、経年によって蓄積された企業ノウハウが踏襲されておらず、結果として開発力や競争力を減退させ、さらには事故の誘因となるようなリスク増大の懸念も想定されます。2005年4月25日に起こったJR福知山線脱線事故で関連資料として公開されたJR西日本職員の年齢構成表は象徴的でした。先述した『団塊の世代』の中では、以下のように表現されています。

 

「かつては若者の代名詞のようにいわれた「戦後っ児」はすでに三十歳を越えており、かつては美しいピラミッド型だった従業員年齢別構成図は見苦しい中ぶくれに変っている。そして、毎年確実に上昇して来る人数の塊は、より高い賃金とより高い地位とを求めているのだ。(中略)成長の止った企業にとって、増大する人件費を支払い、年を取って来る多数の社員に然るべきポストを与えることは、到底不可能である」

 

すべての企業で同じ状況とは言えませんが、あたかも大型客船が目の前の暗礁に乗り上げることを回避できない状態のように、小回りの利かない大規模な組織経営の難しさを感じました。規模が大きければ大きいほど、早めに舵を切らねばならないのです。最たる組織形態が”国家”であって、その方針が政治によって決定されています(cf.「政治はすなわち国家の経営」/松下幸之助)。団塊の世代の定年に付して昨今懸念されているのが年金や少子高齢化による医療負担などで、世界競争力・生産力の減退に重ねて国の借金も増加傾向にある中、八方塞がりな感も否めない時期です。

 

cf.「日本の借金時計」

http://www.takarabe-hrj.co.jp/clock.htm

 

『団塊の世代』が書かれた70年代当時は団塊の世代が社会へと進出し、「ヤング」や「ハイティーン」といった呼称で呼ばれた時期とも重なります。『アンアン』や『ノンノ』といった女性向けファッション誌が創刊され、「アンノン族」なる言葉まで生みました。原宿には若者向けブティックが林立し、三宅一生氏や山本耀司氏、川久保玲氏ら高名なファッションデザイナーが続々と自ブランドを設立し、いわゆる“DCブランド”が台頭した時期でもありました。

しかし78年、「アイビールック」、「アイビーファッション」など流行を生んだ、服飾界では団塊の世代からの支持を受けたVANが倒産、石津謙介氏によって切り開かれた若者のフリースタイルは、画一化された商社の販売戦略によってVANの生命線とも言うべきポリシーが壊され、終止符が打たれました。80年代に入り、浅田彰氏によって「スキゾ・パラノ」(cf.『逃走論 スキゾキッズの冒険』)といった分類が唱えられた後は人々の消費に対する価値観も大きく変容し、インターネットの出現によってそれは決定的なものとなりました。

 

インターネットが「第5のメディア」と呼ばれた時期は久しく、2004年には雑誌広告の出稿高を追い抜き、実質第4のメディアとなりました。また、今年2月に電通総研が発表した「2006年日本の広告費」によれば、2007年には雑誌広告のそれをも追い抜き、2011年には7,500億円を超える試算とのことで、大手広告代理店では新鋭のネット企業との事業提携を進めたり、宣伝広告系の雑誌でも今まではあまり採り上げることが少なかったインターネット業界の特集が多く組まれるようになりました。そうした「メトカーフの法則」(cf.「メトカーフの法則 ? @IT情報マネジメント用語事典」/アイティメディア株式会社)に基づいたメディア・広告界の動きが「勝ち馬効果」を招き、インフラの発達(ブロードバンド化、モバイルの普及等)や消費者のライフスタイルの変遷により、今後のインターネット広告分野はさらなる飛躍が見込まれます。

 

この動きは、私たちの属するインターネット業界では願ってもない機会であり、先の2011年の未来社会でどのくらいの規模のマインドシェアを有していたいかといった希望を抱かせます。企業のライフサイクルにおける成長期が市場拡大の時期に合致することで、有限のサイクルの中で最も収益率の高い企業活動を行うことができるのではないでしょうか。

また、当社が中期経営ビジョンとして掲げる「共存共栄のインターネットコンサルティング」に即して考えると、そのときに現在のステークホルダーであるお客様や社員などがどれだけ成長しているかによって、そのシェアや収益率も変わってくるのかと思うと今から楽しみでなりません。

 

そういった未来予測をモチベーションの源泉として、私たちは企業努力を続けていきたいと考えています。

今後も私たちの考えに共鳴して頂けるような方々と、できるだけ多く出会っていければと思います。