内部統制元年 ~企業の社会的責任と評判管理について~

投稿者:小川 悟

2008/01/03 10:42

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「忠実義務」と「善管注意義務」の対価として、消費者は企業に代金を支払います。これが企業のブランド価値です。この消費者に対する忠実義務と善管注意義務を、企業、経営者、従業員に徹底させるのが「株主責任」です。

『会社は誰のものか』/吉田 望著

今年2008年4月1日より、上場企業に対する内部統制の義務化の一環として、日本版SOX法(J-SOX法)が適用されます(ITサービス業界では、2009年4月から「工事進行基準」が導入されるという話も出ています)。当社は非上場企業ですが、内部統制を視野に入れつつも、まずは私企業としてしっかりと売上を上げて納税する義務を果たす他、業務改善に努めている最中です。日本版SOX法の中ではIT統制についても様々な制約事項があり、当社でも、ある程度模範として取り入れられる部分は組織力強化の一環として取り入れていきたいと考えています。

まず足掛かりとして、昨年は当社運営の歯科医院検索サイト「歯科タウン」において、「TRUSTe eHealth Privacy Seal Program(医療機関・病院向けプライバシー保護プログラム)」を取得致しました。また、ISMS(Information Security Management System)の認定取得も進めているところです。

前者に関しては既に掲載歯科医院数は1,000件を超え、月間PVも50万を超えようとするサイトに育って参りました。一昨年の夏、開設5周年を記念しておこなった懸賞キャンペーンでユーザーアンケートを実施した際にユーザー様から貴重なご意見を相当数頂きました。その歯科タウンですが、私の管轄する部門にてサイト運営をおこなっているということもあり、BtoC向けサイトとしてもっと信頼あるサイトにしなければといった焦燥感が常にありました。単純にユーザーから見える範囲だけでなくて、社内で個人情報を取り扱う以上は細心の注意を払える仕組みと教育が必要でしたが、社の方針で懇切丁寧な実地コンサルティングを提供され、単なる資格の取得に留まらず社内スタッフへの啓蒙も兼ねられたので大変良かったと思っています。

この日本語版SOX法ですが、元々は米国で2002年に制定された「SOX法(サーベンス・オクスリー法)」が下敷きとしてあります。正式には、「上場企業会計改革および投資家保護法」という名の法律とのことです。簡単に言えば、企業の不正行為を未然に防止するための社内での統制義務ということにでもなりましょうか。ライブドアの粉飾決算事件は記憶に新しいところですが、こうした事件が内部統制の制度導入を早めた一因となっていったのかもしれません。

企業が不正行為を働いた結果、それが上場企業であればなおのこと影響範囲は広いものと思います。経営陣や社員、その家族に留まらず、株主、消費者、取引先等々、ステークホルダーが広範囲に渡るため、謝罪だけでは済まされないケースもあるでしょう。

 

財団法人日本漢字能力検定協会が毎年おこなっている今年の漢字で、2007年の世相を漢字1字で表したものが「偽」だったという結果が発表されました。松岡正剛氏や白川静氏のような方を真似て漢字が表意文字であることを考えてみると、人偏に為と書いて「偽」となります。「偽」は大抵にして人為的なもので、極自然的に発生するものではありません。経営資源でもある「人」が為せる行為なのです。

 

2007年1月10日、不二家が製造・販売していたシュークリーム2,000個に消費期限切れの牛乳を使用していたという内部告発があり発覚した事件がありました。「マスコミに発覚すれば、雪印乳業の二の舞になる」といった社内文書までもがやり取りされていたそうです。また、雑誌「PRIR 2007年3月号」(宣伝会議)では、不二家に対するイメージ調査のアンケート結果を掲載していました。不二家の販売再開時に同社製品を購入するか?という問いに対して、「購入しないと思う」「不二家の対応を見て決める」が84.7%でした。今でこそ営業再開には至っているものの、失われた信頼を回復することは大変だったことでしょう。

 

ちょうどこの時期、私は広報業務に関するセミナーを受講しておりました。2000年以降に露見したBSE問題において、大手食品加工メーカーによる牛肉偽装事件も発覚しましたが、この時期に広報業務の責任者をされていた方から直接お話を頂くことができました。「数百万円の利益のために、数十億円の損失を出した」、「深夜、兜町をおさえて緊急記者会見を開いた」、「ものすごいフラッシュの数で額からは汗が流れ出て止まらず、自分の子供くらいの年端の若い記者から感情的な質問が相次いで出され、精神状態を保つのがやっとで正常な判断を欠く状況だった」等の話を思い出すのが辛そうに、また申し訳なさそうに話されていて、CSR(企業の社会的責任)コンプライアンス(法令遵守)経営に対する重要性をリアルに感じることができたものでした。

 

ところが昨年は不二家に続き、その後ミートホープによる牛肉偽装事件、「白い恋人」(石屋製菓)の賞味期限改ざん、伊勢の伝統銘菓「赤福」の製造日偽装、高級料亭「船場吉兆」で産地偽装、マクドナルドのサラダの調理日偽装、ローソンで期限切れのおでん販売、ロイヤルホストで消費期限切れ食パン使用、「ミスタードーナツ」(ダスキン)で無認可の食品添加物使用、販売する家具やギフトなどに景品表示法に違反する表現があったとして伊勢丹や山形屋をはじめとしたデパート9社とスーパー1社に対し公正取引委員会から警告等々、食品に関する偽装だけでも枚挙に暇がありません。

マスコミ報道の過熱化(社会の公器というよりは、メディアリテラシーに欠ける視聴者をうまく利用した私企業のPRに近い煽り方)も一部あったかと個人的には思うのですが、偽装による影響の程度の差こそあれ消費者にとっては「偽」に満ちた1年だったと思えたかもしれません。

他にも不正行為、違法行為といった側面で言えば、NOVA、コムスン、グッドウィル、フルキャストなどのような大手企業でも特定商取引法違反等の不正行為があった等で事業停止の措置などを受けています。学校や社会人生活の中で例えても、違反者が出ると罰則が厳しくなるように、こうした社会の規範となるべき大手企業、あるいは上場企業が不正行為をすると国側としては罰則強化など法改正に動かなくてはならない立場となります。法改正となれば必要に応じて自社サイト内の表記も変更する必要性が出てくるでしょう。振り子の原理で、そうした煽りを末端で最も受けることになるのは中小企業なのかもしれません。

 

さらに昨年末は吉野家のアルバイト店員による「テラ豚丼」、ケンタッキーフライドチキンのアルバイト店員による「店内でゴキブリを揚げた」という旨の日記を某SNSにアップしたという騒動が起こりました。後者に関してはより悪質で、日本ケンタッキー・フライド・チキン側は12月6日に自社サイト上で「ネット投稿に対する当社の対応について」というリリースを公開し「事実無根の書き込み」と説明していますが、食品衛生に直接絡む問題ですし、いたずらにしては本人談だけで根拠や正当性を証明することも難しい内容で単に風評被害で片付けられない、まさに企業側としては年末商戦を迎える直前の時期のことで悪夢のようなアクシデントだったと想像します。さらには後日、「高校生に対抗しようと思う」と、バーミヤン勤務の20歳の私立大生が「ゴキブリのだしが効いたスープでラーメンを出していた」と日記サイトに書き込み、炎上――。

アルバイト店員のプライベートまで教育・啓蒙、管理することは正直無理だと個人的には思います。信賞必罰の社内規則(雇用契約)を設けるのが限度ではないでしょうか。この時代、企業に求められる社会的責任に比べ、家庭や個人に求められる社会的責任の比率が小さ過ぎると思うのです。評判管理(レピュテーション・マネジメント)と一口に言っても企業と個人とではリスクの大小が違う中で、別のベクトルを持ちながらも同じ土俵に立たされて、テロリズム的に起こり得る突発的なあらゆるリスクに対応しなくてはならないというのは大変難しいことと思います。このままいくと、企業と個人間においては、リスクや責任に対する考え方や影響に対する範囲特定や効果予測といった能力にも開きが出て、ますます認識の乖離を生むのではないかと思っています。

 

さて、こうした事例を総覧しながら、私たちは誰のために、どこへ向かうべきか思慮するのですが、個人的には中庸、等身大の動きが今を機能させる上では大切ではないかと考えるタイプですので、事前の計画性はもちろんのこと、企業のライフサイクルやそのときのガバナンスに応じて優先順位を決めていければ良いのではないかと考えています。無理をして肝心な本分を見失っては誰のためにもなりませんし、ステークホルダーの拡大に並行して考慮すべき影響範囲も拡げていけば良いのかと思いますが、最低限一人ひとりが会社という枠にとらわれず社会的責任を背負って日々の業務に問題意識を持って取り組んでいけるような社風にしていきたいと思います。