【ベトナム現地法人経営秘話】ベトナム駐在半年、人材育成セミナーへの初参加で得た刺激 ~産学官が連携しIT人材輩出の推進を図るベトナムの息遣いを感じた5月~

投稿者:小川 悟

2012/06/17 22:59

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日本の産業は今、大きな曲がり角に来ています。これまで大きな国内市場に支えられて成長しましたが、少子化によって市場は縮小していきます。今後、目は海外市場に向きますが、日本のブランド力の劣勢は否めません。世界で戦える日本ブランドの復権が必要です。

当社は今後「シンクグローバル」をスローガンに掲げ、海外戦略を強化していきます。入社のころ夢見た舞台が目の前にあります。若い力と一緒に社会の利益に貢献できる企業グループを築いていきます。

/『今、若者たちへ-君に伝えたい私の経験-|日経アドネット』より。

 

上記に引用したのは、2008年5月29日、日経新聞朝刊に掲載された初芝五洋(HG)ホールディングス社長・島耕作による社長就任の所信表明です。

 

当時、当社社長の木村から「好きだろ、こういうの(笑)」と、この文章が掲載された日経新聞の記事を手渡されたことがあります。

 

なぜ今になってその頃のことを突然思い出したのか――。
昨今、日を追うごとに増えてきている日本企業のグローバル化の話題や、日本の高度成長期を支えた立役者であった自動車業界や家電業界の苦心を取材したニュース記事を見ている内にふと思い出したこともあるかもしれませんが、実はこの月、私は当社内のあるプロジェクトの責任者をしていました。

「第2回 Web2.0マーケティングフェア」(現「Web-Mo(Web&モバイル マーケティング EXPO)」)という展示会への出展でした。

当時のことはこのコラム(「第2回 Web2.0マーケティングフェア」出展を終えて ~出展裏話、見えない利益を創出する~)でも書いていますが、この展示会を境に当社とベトナムとのお付き合いが本格化していったのです。

 

私は当社展示ブースでビラ配りなどを手伝った後、当社お取引先企業の責任者の方と会場内の休憩所で待ち合わせをして商談をすることにしていました。

 

「Webサイトの保守業務を、御社の業界に見られるようなラボ型で引き受けて頂くことは可能ですか――?」

 

小規模のWebサイト制作、マーケティング業界での事例もなく、当時の当社にしても突拍子もない相談だと感じており、当社にご来社頂いて話し合っても話が進まなそうな気がして、熱気のある展示会の会場でお話しませんかと持ちかけたのでした。

その方はベトナムに持つ関連会社側のブリッジSEの上司に当たる方で、日本で自社開発のソフトウェア販売の責任者を兼務されている方でした。

 

その方曰く「弊社にも前例はありません」とのことでした。しかし、そう言いながらも「是非進めましょう!」とご快諾頂き、むしろBPO(Business Process Outsourcing)はもとより、オフショアなど全く経験のなかった私にパワーポイントで資料を作って体制や事例など熱心にご説明頂き、契約書の作成に始まり、当社専用のチームを作って業務フローの落とし込みをされたり、プロジェクトを推進するためにものすごくご尽力頂きました。もちろん今でもお付き合い頂いている企業様です。

 

まさにあの頃、ベトナムにある日系企業様とのお付き合いを本格化しようとしていた頃で、「あの日からもう丸4年が経過するのか――、不思議なもので、今、自分はそんなベトナム子会社で責任者をしている」という思いがふと私の中に生じ、同じ頃に目にした先の日経新聞の記事とリンクしたのかと思います。

 

 

さて、そんな2012年の5月、私が参加し、印象に残った2つのイベントについて今日はお伝えできればと考えています。

1つ目は、タイトルにも挙げた人材育成セミナー。2つ目は、以前もこのコラムの中で触れたことのある「ホーチミンIT飲み会(第4回)」です。

 

今回のコラムでは、フリーセルベトナム(以下、FVN)でも今後の継続的な課題と捉えている人材育成についての考え方と合わせて、この2つのイベントの様子や参加して感じたことなどをお伝えできればと考えています。

先にお断りしておきますと、これはベトナム、ホーチミンに半年駐在して、Webサイト制作業務という限定的な業務を行う中で感じている個人的な印象と一般論を交えつつ、FVNの今後の課題や現状の取り組みをお伝えする内容になります。

■人材育成セミナー(2012年5月23日、ホーチミン日本商工会主催)
http://www.jbah.info.vn/jp/news.php?y=2012&id=3

当日のセミナー内容は上記のページにまとめられています。
3名の演者の方はいずれもベトナム人の方ですが、日本に10年近く滞在された経験を持たれ、日本語で話されていましたので私も大変良く理解できました。日系資本の企業、現地企業、大学と、分野の異なる方々から、「ベトナム人の人材育成」をテーマに苦労された点やアドバイスなど共有を頂けました。

 

FVNはWebサイト制作・保守を行う企業ですので、全部が全部参考にできるかは分かりませんが、私にとってはベトナム駐在後、初めての人材関連セミナーでしたのでいろんな意味で大変良い刺激を受けました。

事前に「人材育成が進みにくい点」として、商工会加入企業に対するアンケートが実施されており、そこで多く挙げられていた日系企業の意見がマスの声だと思い、ある程度の参考になるかと思いましたので以下挙げさせて頂きます。

【ベトナム人の長所と感じている点】
まじめで勤勉、忍耐力がある、親日、キャリア志向が強い

【ベトナム人の短所と感じている点】
個人主義、プライドが高い、長期視点の欠如、全体視点の欠如

従い、事業の中核を担う管理職層の人材が枯渇しており人材獲得・育成・定着が課題となっている、というものです。

傾向としては参考になりましたし、具体的な人材育成プログラムやスケジュールの紹介等もあり、大変興味深い内容でした。今の私にとって重要なことは、こうした情報を得てFVNをどうしていくのか? もっと端的に言えば、私自身はどうするべきか?ということですので、他で得た情報と合わせて昇華していく必要を強く感じました。

ところで、上記のついでにお話しすると、私が日本に帰国した際にいろいろな方から決まって聞かれることがあります。

1.ベトナム人の給料って月給1万円くらいなんでしょ?
2.ただ、昇給率がハンパなく高くて賃金上昇ペースが早いって聞いたけど?
3.残業をほとんどしないんでしょ?

今の私だと何とも返答しがたい質問ですが、少なくとも業種や会社、従業員によって違うと考えています。

最低賃金で言えば昨今何度も引き上げられており、ベトナムでも地域によって異なりますが最も高い都市部で約8,000円程度です。しかし、日系のIT関連企業で月給1万円しか支給していないところはまずないと思います。

中国のフォックスコンのケースに見られるように、全体の給与水準引き上げのトリガーになるという意味では意識する必要もあるかもしれませんが、殊私たちのような業種や規模感の企業には現状、連動するという程影響は出ていないように感じています。

最低賃金の上昇率よりは、むしろ今後、同業種間の競争が激化していく中で、そうしたデータとは関連性なく自由競争の需給関係によって引き上げられていくことの方が影響が大きいと感じます。

 

また、給与の年間上昇率(昇給率)が例えば10%、20%と言っても、(大きいことは大きいですが)25万円と2万5千円に対する上昇額とでは当然全くインパクトが異なります(GDP等でも言えることかもしれませんが)。

同時に、属するコミュニティによってそうした通説が、雇用側や被雇用側に変に根付くのもやりにくいと感じました。2万5千円から5千円昇給するのと、10万円から2万円昇給するのとではどちらも20%のアップです。率だけで一律で実施していったら、元々給与が高い人と新卒との差はどんどん付いていってしまいますし、先輩社員には支給し過ぎ、新卒には少な過ぎになってしまう懸念もあります。

 

残業は確かに国策で労働時間の上限が他国に比べても短めに規制されています。マネジメントで留意しなければならないというのもありますが、中長期的に対外競争力を付けていくことに支障にならないか?という心配を感じたくらいです。もちろん、日本の企業に多いと思われる横並びの人事が歓迎されているわけではないようですが、これらのことは一つの側面からでは判断ができません。

 

 

現状のFVNで仕事をするにあたっては、全くの未経験だと厳しいですが、かと言って10年選手にしてもらいたい仕事もありません。

1,2年の実務経験がある人を採用し、本社側の協力を仰ぎつつ、FVN内で育成していく体制を構築中です。採用活動と人材育成、制作ガイドラインのローカライズなどを同時に進めつつ、学習/経験曲線を意識した受け入れ調整をしながらバランス良く進めています。まずはコアになる現スタッフの底上げを急ぎつつ、ある程度汎用性を持たせた組織構築をしていきたいと考えています。

 

 

さて、2つ目の第4回 ホーチミンIT飲み会について書きます。
先の人材育成セミナーの翌日に開催され、私も参加してきました。

今回の目玉は何と言っても、Ruby開発者まつもとゆきひろ氏による講演

 

cf.「膨らむ可能性と期待」、Ruby国際標準化報告イベント開催(2012年6月5日,「ITPro」)

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20120605/400524/

 

翌日に開かれた第1回Rubyホーチミンフォーラムでのご講演がメインかと思いますが、初来越とのことで、フォーラムの前に日本語での説明を間近で聴けたことは大変貴重な機会だったと思います。

Rubyは当社業務内では使われていませんが、発祥地日本はもとよりベトナムではまだ普及していないものの、プログラムの自由度が高く、生産性が高いという理由で、アメリカではスタートアップ企業に好まれる傾向があるとのこと。導入企業の事例で有名なのは、Twitter、米グルーポン、ディズニー、楽天、食べログ等とのことでした。

ベトナムでRubyを扱える技術者を増やすことで、コストを下げて世界競争力を付け、今後の受託開発や雇用を増やしていくという方針で推進されています。

ベトナムは、直近の共産党大会で、2020年までにハイテク産業のGDPに占める割合を45%に拡大するという国家指針を挙げています。

cf.「政府、「2020年までのハイテク産業開発計画」を発表」(2011年6月8日,「VIETJO ベトナムニュース」)
http://www.viet-jo.com/newsallow/social/print_110607105009.html

 

ベトナムは長い戦争と植民地化の歴史があり、今のような市場経済が始まったのも1986年のドイモイ政策以降と言われます。日本のように高度成長期の前例はありませんが、それ以降、外国企業の投資を積極的に受け入れ、アジア通貨危機やリーマンショック等の波はあったものの、昨今何度目かのベトナム投資ブームを迎え、まさにこれからという段階にあるのかと思います。

 

人材育成セミナーでホーチミン市人文社会科学大学日本学科長の方からも説明があったように、産学官が連携してIT人材輩出の推進を図る動きは以前からあったとのことで(「FPT大学」の事例等はまさにそうだと思います)、他のASEAN地域に比べ、賃金が低く抑えられている割に素養のある人材が既に多く存在しているというのは一つのアドバンテージとなっていると思います。

 

また、製造業がチャイナプラスワンとしてベトナムを捉えるのと同時に、IT企業のオフショア開発のメッカとしての可能性も大きく秘めており、そうした全体感情が日本企業だけでなく、中国や韓国は当然のことながら欧米企業からのベトナム進出も相次いでおり、IT集積地として産業クラスター化することで人材力の向上や国全体の競争力に繋がり、世界的な認知が上がって受託数の増加も見込めるのではないかという期待も持てます。

 

かつて中国が「世界の工場」、タイが「東洋のデトロイト」と呼ばれてきたように、ベトナムが「ITオフショアにおける世界の開発現場」となる日が来るかもしれません。

 

 

最後になりますが、単純な発想かもしれませんが、国を企業に例えた場合、ベトナムはどんな企業になるでしょうか。

いろいろな見方があると思いますが、大企業には思えませんね。勢いがあり注目されているベンチャー企業のように感じられます。

収益面や事業計画、ビジネスモデル等の体制面を含めたポテンシャルに不安定な側面を垣間見て企業の直接投資の際に迷うポイントになることもあるのかもしれませんが、どんな企業にもフェーズに呼応した課題があります。

 

また、社会人経験のない、もしくは少ない人の「大企業で働きたい」という意見の内の幾つかは、「新興国よりも先進国で働きたい」という発想の構図に似ていると感じることがあります。

平均年齢44.6歳の日本のように年金問題を抱える成熟した国があると思えば、歴史的背景から国民皆保険が浸透しておらず、身近に年金をもらった人を見たことがないという、平均年齢27.4歳のベトナムのような国もあります。両国で、国を構成する国民の間で共有されているノウハウや暗黙知に差があったり、強み弱みが異なるのは当然のことのようにも思えてきます。

極端な例ですが、どちらの国にも「課題」があるのだと言うことです。

 

私の仕事は、ベトナム現地法人を見る立場として、今は自組織の成長に注力して信頼を積み重ね、顧客と雇用を創出し、本社組織やお客様やパートナー企業様の発展に寄与することが一番の使命と考えています。人材育成はそのための課題の一つであり、問題や目的ではありません。5月に見聞して得た内容で、もっと自身の知見を広げ深めたいと感じました。

私が5月に参加したイベントで感じたことの共有は以上となります。今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

 

勢いがいい国というのは、1つか2つのことに集中して取り組んでいるものだ。
(中略)新興国の新しい動きを見て、世界のお金の流れを見て、成長余力を持った国の若い世代が豊かになっていくそのプロセスに乗っかる。成長のチャンスがあるところに経営資源をシフトする。日本から飛び出して勝負する――。

「新興・途上国」争奪戦で日本企業が勝つには 大前研一の日本のカラクリ(PRESIDENT 2010年3月1日号「プレジデントオンライン」)より。