小惑星探査機「はやぶさ」関連映画で改めて学ばされるリーダーシップ ~失敗を繰り返さないための「成果」を「進歩」に繋げるマネジメント~

投稿者:小川 悟

2012/01/31 13:23

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But Professor Itokawa never spoke of failure, only of “results”.

We’ve made progress thanks to those results.

/映画『はやぶさ HAYABUSA』(堤幸彦監督)

 

現在私はベトナム最大の都市、ホーチミン市に駐在しています。

ベトナムでは中国暦をベースとして旧暦(陰暦)を採用しており、今年は1月23日から4日間が旧正月(テト)期間にあたり、どこもかしこも一斉に休業となってしまうため、その期間を含む1週間だけ日本に一時帰国して本社に出勤しておりました。

旧正月が明けた30日の夜のフライトでベトナムに戻ったのですが、暗い機内で読書にも疲れたので映画でも見ようと番組表を見てみると、『はやぶさ HAYABUSA』(堤幸彦監督)があったので見てみました。

この「はやぶさ」が多くの人に感動を与えたと同時に、ビジネスシーンでも多く転用されていることについて感じたことを今回書きたいと思います。

「はやぶさ」と言えば一昨年6月に、60億km、7年に渡る宇宙の旅から無事にミッションを終えて地球に帰還、カプセルを届けたことで「宇宙史に残る偉業」と称され、昨年はギネス・ワールド・レコーズに「世界で初めて小惑星から物質を持ち帰った探査機」として認定もされ、それ以前まで「平成大不況」だとか「失われた20年」などと言われ、事業仕分けが行われて「挑戦」「創造」「付加価値創出」よりも「コスト削減」を強いられるような風潮に社会が覆われ、どのメディアも日本ブランドが振るわないと書き立て、私たち市民でさえもどこか閉塞感や自信喪失、モチベーションダウンを感じてしまうような肩身の狭い思いでいたさなかの出来事で、「絶対諦めない」とか「希望」といった強い思いを奮い立たせてくれた明るいニュースだったことを思い出します。

私もその年、DVDで『HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-』(帰還バージョン発売前に焦って購入)を観ていたのですが、「はやぶさ」帰還後にビジネス誌やネット上のビジネス関連のコラムなどでもよく引用されていたので、映画でどのように表現されるのか見ておきたかったですし、2月、3月にも別会社からの公開を控えており(もともと提案は8社からあったそうです)、第1弾映画がどのようなものだったのかも気になっていたところでした。

■全天周映像 HAYABUSA -BACK TO THE EARTH-(「はやぶさ」大型映像制作委員会によるドキュメンタリー作品)
http://www.live-net.co.jp/hayabusa-movie/
■はやぶさ HAYABUSA(20世紀フォックス,11年10月公開)
http://movies.foxjapan.com/hayabusa/
■はやぶさ 遥かなる帰還(東映,12年2月公開)
http://www.hayabusa2012.jp/
■おかえり、はやぶさ(松竹,12年3月公開)
http://hayabusa3d.jp/

冒頭に挙げた一節は、『はやぶさ HAYABUSA』中に出てくる脚本の一部ですが、私の見たものが英語の字幕スーパーだったためにこのような引用となってしまいました。

確か「(糸川教授は)決して“失敗”という言葉は使わなかった。その代わりに“成果”という言葉を使った。成果があったからこそ進歩があった」というような一節でした。

「失敗は成功の母」という言葉もありますが、つまりは「失敗」という単なる結果(状態)を示すだけの言葉は責任逃れのエクスキューズであって、失敗をしたことで得られた反省材料なども含めて「成果」であるから、それを次回に生かすことで進歩に繋がるといった考え方です。

奇しくも、最新号の日経情報ストラテジーの特集は「失敗を生かす組織」というものでしたが、ここにも「はやぶさ」の名前を見つけることができました。原発事故などを引き合いに「日本人は失敗に向き合う姿勢が不十分」、「失敗と向き合い、共存することは、競争力の源泉ともなり得る」という内容が書かれています。「はやぶさ」については、「はやぶさ」の観測機器を製造していた明星電気という会社の特集が組まれていました。

 

cf.失敗体験を通して創造力を生み出すために ~アポロ月面着陸40年、世界天文年2009~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2009/05/post-31.html

 

以前書いた上記コラムを見返して、「アポロ13」が“輝かしい失敗”なら、「はやぶさ」は“輝かしい成功”だろうと感じていました。

ここで引用した「JST失敗知識データベース(独立行政法人 科学技術振興機構)」は事業仕分けの一環でか畑村創造工学研究所へ移管されてしまいましたが、日本人である私たちは、今のような時代、改めて失敗にしっかりと向き合って、「不必要な失敗」をしない方法を選択していく必要に迫られているのですね。

今のような時代――、スイスで25日に開会し、昨日29日で閉会した世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」で、俳優の渡辺謙さんが日本人俳優で初のスピーチをおこなったとのことで興味を持って目を通してみました。渡辺謙さんは、先の『はやぶさ 遥かなる帰還』で主演を務められますね。

cf.渡辺謙さん、ダボス会議スピーチ全文(「東京新聞」,2012年1月26日)
http://www.tokyo-np.co.jp/feature/news/davos.html

昨今の欧州財政危機や国家間の緊張関係悪化等のニュースを見ていて、昨年世界各地で起こった大地震や洪水等の天変地異に加え、より一層不安材料が増えたかのようにも感じていた中、一筋の光明とも感じられる内容で元気を頂けたような気がしました。

ところが、まさにそのダボス会議の裏で進められていた「世界最悪企業2012(Worst company of the year 2012)」の投票結果が同タイミングで出ており、ノミネート時に2位だったブラジルのVale社以下の企業を突き放して1位を争っていた東京電力が、辛くも800票の僅差で2位に逃げ切ったニュースが報じられました。

原発事故の際にずさんな管理と言われただけでなく、その後の情報操作や隠ぺい工作などが世界からの目に悪く映ったとのことです。実際、「世界終末時計」で禁断の針を進めてしまった要因にも挙げられました。

cf.世界終末時計、1分進んで「残り5分」に 日本の原発事故も要因
http://www.cnn.co.jp/world/30005222.html

「Worst company of the year」は、スイスのNGOが世界経済フォーラムに合わせて創設した賞で、企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)を果たしていない「世界最悪企業」を投票で決めてフォーラム内で表彰することで社会的責任を果たすように働きかけるという目的でおこなわれているものです。

 

「想定外の事故」だったにせよ、その後の言動がより注目されることは周知の事実であった筈で、国際社会の一員としての信頼を低下させただけでなく、誠意の見えにくい対応によって日本の観光産業に与えたダメージが必要以上に大きくなった点も否めないでしょうし、東北周辺の住民を中心に国民に対して与えたストレスも計り知れません。「社会的責任を果たしていない」という評価を「失敗」と捉えるならば、そこから何を得たのか、せめてそうした見解は知りたいですよね。

また、成人の日には「新成人の9割が日本の将来に不安」などといったアンケート結果が報じられ、新成人へのインタビューで「総理大臣がコロコロ変わる」、「メディアが暗い話ばかりしているから世間も右肩下がりになる」、「国会でけんかするのはやめてほしい、切なくなる」といった声も報道されました。ステレオタイプな意見とも取れなくもないですが、国民の総意を代表したものとも思える声、もしくはニュース編集でした。

政治だけでなく、先の東電のケースもそうですし、他の一部私企業でも「企業の社会的責任」が欠落したために、「日本、大丈夫なのかな?」と国民を不安にさせたり、悪いことをすることへの抵抗感や罪悪感を引き下げる要因を作ってしまっているようなケースがあるかもしれません。

cf.マクロミル モニタサイト 公開調査データ 「2012年新成人に関する調査」
http://monitor.macromill.com/researchdata/20120105shinseijin/

会社に置き換えて考えるのは比較するものが違いますが、確かに一つのプロジェクトになぞらえても、上層部同士が揉めているだけだったり、プロジェクトリーダーのすげ替えばかりがおこなわれて遅々として進まず、ビジョンが示されずに状況が改善されないことが続けば、オペレーションに当たっている者からすれば不安しか感じません。リーダーには、このような状態を引き起こしてしまうような状況にしないような采配と、環境改善の力も求められると思います。

また、そういったことが常態化した組織に居続けることも個々人の価値観形成上で悪影響を及ぼしそうな印象を受けます。

 

以前、社内勉強会「フリーセル大学」の一環で、いつも共に頑張って仕事している現部課長向けに研修をしたことがありましたが、そこで『子どもが育つ魔法の言葉』(PHP研究所,Dorothy Law Nolte/Rachel Harris共著,石井千春訳)という書籍を共有したことがありました。著者が1954年に書いた詩と言われる『子は親の鏡』に書かれてある内容が、当時の組織構築フェーズにおいて特に重要な事象であると思っていました。内容の詳細については下記ご参照下さい。

cf.あの ドロシー・ロー・ノルト 博士の 『子どもが育つ魔法の言葉』 シリーズ(PHP研究所)
http://www.php.co.jp/bookstore/dr.html

 

そういう点で、私たち国民が今のような「印象」を受け続けてしまうことは良くないと感じているので何とか理解して頂きたい部分でもありますね。今は問題解決で手一杯で、ビジョン策定や周囲への気遣いが難しい時期なのかもしれませんが、まだまだ私たちの民度も自分たちを守ることで手一杯で逆にそこを気遣う程は人間が出来ておりません、といったところでしょうか。

今年2012年は辰年、干支で言えば「壬辰(みずのえたつ)」、運勢としては吉凶賛否が分かれています。

「リーダー」という観点で見ると、世界的には、ロシア、フランス、アメリカ、韓国で大統領選挙が行われ、中国でも指導部交代があると言われている年です。

cf.世界のリーダー特集 – NHK クローズアップ現代
http://www.nhk.or.jp/gendai/special/08_leader.html

 

世界のリーダーがどう共存関係を構築していくのか。私たち国民一人ひとりがその動向に注目しつつ、自身を取り巻く環境の中でベストを続けていかなくてはなりませんね。

また、仕事の上では、顧客満足創出のためにも会社を盛り立てるリーダーとしても、「成果」を「進歩」に繋げていける年にしたいです。

 

この「成果」の中には成功体験も失敗体験もいっぱい詰まっています。さらに世の中を見回せば、自分自身の成功・失敗体験以外にも多くの見本があることに気が付きます。そういったものも糧にして、今年1年頑張って参りますので、引き続きどうぞ宜しくお願い致します。