グローバル競争時代に突入するIT・Web業界 ~アジア進出をされている企業様と情報交換する中で感じた期待感と危機感~

投稿者:小川 悟

2011/06/30 00:09

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それでも僕はあの時、海外に出て行って本当に良かったと思っています。世界の中での日本の位置、海外の国々が日本をどう捉えているかなど、日本にいる時は先入観で曇って見えなかったものが、海外に出て揉まれる中で見えるようになったからです。

/『この国を出よ』(大前研一・柳井正著)

 

今日29日は第7回 アジアンプレナーズサロンという、アジアでビジネスを展開している起業家・経営者の集まりに参加してきました。刺激になったことが多かったので、感動冷めやらぬ内にそこで感じたことなどを共有させて頂きたいと思います。

同サロンに参加させて頂くのは、前回の第6回に引き続き、今回で2回目となります。

 

今回のサロンは「インドネシア特集」でした。サロンの紹介ページには、「人口2億3,000万人、Facebookユーザー3,000万人(アメリカに次ぐ世界2位)のソーシャル大国インドネシア」とあります。ちなみに、日本の人口は約1億2800万人、日本国内のFacebookアクティブユーザー数は約380万人です。

 

cf.「mixi, Twitter, Facebook 2011年5月最新ニールセン調査、Facebook利用者820万人へ 2011/06/20 ニールセン/VRI 国内アクセス調査」(In the looop:ITmedia オルタナティブ・ブログ)より。

 


Socialbakersの統計では、インドネシアのアクティブユーザー数は3,800万人を超えており、日本の10倍の利用者がいることになります。日本にはmixiなど、他の先行するSNSの利用者がいるので、殊SNSの浸透度ということで言えば同様の市場規模とも言えるかもしれませんが、インドネシアでそれほどの利用者がいるというのは意外にも感じました。

 

私はずっと日本にいて、世界の動向などもテレビや新聞、インターネットで見るか、極まれに旅行や出張で海外に行くことがあっても、そのときだけの断面を切り取ったような現実しか見ることはありません。

しかし、今こうしている間にも、アジアのFacebookユーザーだけで言っても、各国で利用者数が増え続けているわけです。

 

 

昨年、当コラム「不況期の「Web戦略アウトソーシング」のすすめ ~「SoftBank Days 2010~iPadが変えるワークスタイル~」等の外部セミナーを聴講して~」の中で「淘宝網(タオバオ)」や「楽酷天(らくてん)」に触れて以降も、DeNA社が「モバゲータウン」ブランドを「Mobage」と海外展開を意識して改称したり(昨年、海外向けのiPhone、iPod touchアプリとコミュニケーションスペース「MiniNation」を展開、先日は韓国に現地法人設立)、スタートトゥデイ社(cf.「ZOZOTOWN」)はソフトバンクと共に中国、香港、韓国と出店、楽天はインドネシアとブラジルへ進出、サイバーエージェント社はグローバルサイトオープン、アドウェイズ社はベトナムにオフショア開発センター設立、アイレップ社やアウンコンサルティング社がアジア企業と協業したという旨のリリース、その他、ベトナムやカンボジアへの日本企業の進出・投資が加速してきているといった日本企業のアジア進出に関する記事が、私自身の関心が高まっているからというのを差し置いたとしても、よく目に飛び込んでくるようになったと感じています。

 

メーカーや製造業などが新興国に工場を設立したりする話は今までにも多く見聞きしていましたが、最近ではサービス業、インターネット系企業の進出も随分増えてきたと思います。これら有名企業がアジア(海外)進出を積極的におこなったり、グローバルサイトを開設したり、また、海外進出・現地法人設立支援サービスや投資が加速したりする事実を見ていると、オフショア化によるコストダウン以外にも、「そこに市場があるから?」という思いにも駆られてきます。

 

例えば、最近オンエアしているソフトバンクのCMで、「何これ、ここどこ!?」と驚くようなシチュエーションのものがあります。

 

cf.SMAP in Singapore | ソフトバンクモバイル

 

こちらのCMは、シンガポールに昨年できた「MARINA BAY SANDS」というホテルが舞台となっています。

シンガポールの昨年の経済成長率は脅威の14.4%。国土面積は東京23区より少し大きいくらい、人口も500万人弱の都市国家とはいえ、「観光立国(The VISIT JAPAN program)」を目指す日本が真似したいと思っても、あのような立地を活かしたホテル建設などはちょっと難しそうです。国が小さいながら、国の収益を高めるための措置を採っているんでしょうね。実際、前回参加した「第6回 アジアンプレナーズサロン」の席でも、シンガポールは国全体が一つの会社のような政策で収益性向上に努めて成功しているといったお話がありました。

 

少し気にかけるだけでこの程度の情報はすぐに入ってくるのですが、現実はもっとアクティブなのではないかと想像しています。日本でずっと生活していると、一部の人は違うのかもしれませんが、世界各国の政治や経済、文化といったものにそこまで意識を向けなくても生活に困らないような気もしてきます。むしろ国内の情勢の方が気になって、関心もそちらに向きがちです。ところが、その自国の情勢も細かいところまで把握できているかと言われるとそうでもありません。大企業に新卒で入社したばかりの社員が、自社の財務状況や他社の動向について想像し得ないのと同じように、この国の中だけにおいても、自身の知らないことというのは意外に多いものです。

 

「失われた20年」と言われて近年日本は低成長を続けてきて、昨年には国の借金が900兆円を突破したという財務省の発表がありました。20年前の借金は300~400兆円なので、20年で3倍近くに増えた計算となり、震災後のGDP比で見ると200%近くになっています。この間、国民所得が増えて贅沢な暮らしをしてきたとか、将来的に所得が上がってゆくような投資活動をおこなってきたのなら借金も致し方ないとなるのかもしれませんが、所得水準は昨今では20年前とほぼ変わらない数字になっていますし、所得が増えていきそうな投資というのも思い当りません。

 

我が国日本も、ようやくプラスへ転換するか?と言われていた矢先に震災の影響を受けて、復興特需に期待するしかない状況になっています。また、消費税増税の是非が議論されていますが、冒頭で挙げた『この国を出よ』の中で大前研一氏が言及されている見解では、消費税1%あたり、2~2.5兆円ほどに該当するのだそうです。財務省で公開している国の借金の現状や、歳入と税収の関係図などを見ると、消費税増税だけでは国の借金を減らすことには大変な時間がかかりそうな気もしてきます。

 

 

■3.国の借金の現状は? :: テーマから調べる:: 調べる :: 日本の財政を考える(財務省)

http://www.zaisei.mof.go.jp/theme/theme3/

 

 

まして、昨年の国勢調査の結果、日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が23.1%に上昇し、過去最高を更新したとニュースにもあるように、日本は世界でも有数の高齢者比率の高い国で、さらに新興国よりも手厚い社会保障がある分、それにかかるコストも相当なものであると想像します。例えば今から4年前の記事ですが、以下のようなものがありました。

 

 

■ベトナムの知られざる実像(2) 30歳未満が全人口の6割以上,ソフト技術者は3本の指に入る人気職種(ITpro)

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070215/262102/

 

 

先述のベトナムと、日本の人口ピラミッドの対比が出ており、分かりやすいため引用させて頂きましたが、日本がこれから先迎えることになる状況を想像してみると、「ゆりかごから墓場まで」的政策を進めれば進めるほど、より一層の社会保障コスト増になることが明白ですが(cf.「英国病」)、それを支える若年層の割合が少ないことに懸念も感じます。

 

当時、ベトナムの国全体の平均年齢は27歳、中国やタイが34歳、日本は45歳と言われたことがありましたが、国全体を一つの会社と捉えると高齢者で構成される日本ほど他国よりも高い生産性、高付加価値を生み出す仕事をしていかないと、いわゆる人件費率の異様に高い会社のようになってしまいそうな気もします。

 

ベトナムやインドネシアのような新興国では、日本に比べればまだまだGDPや国民所得も少なく平均賃金も低いですが、技術力や生産効率自体が相応かと言うとそういうわけでもありません。むしろ、製造業だけでなく、IT産業も今後、製造工程をオフショア化させてゆくことが加速していけば、技術力や生産効率自体は日本より勝ってくる可能性も考えられます。当社代表の木村のこちらのコラムからも引用すれば、「加工」「組み立て」の工程がそれに当たると思います。

 

私の所属するCS本部の業務内容にこうした業務も含まれるため、今、IT業界全体が、かつて製造業が迎えたのと同じように大きな転換期を迎えていると思いますし、私個人としても強い危機感とともに、知らず知らずの内にグローバル競争に巻き込まれた当事者になっているという思いもあります。

 

日本にずっといると、政治や税制などに不平不満を言いながらも何とか生活が成り立ってしまうこともあって――、あたかも、時に社内での自身・自部署の立ち位置・保身や消費者不在の開発を優先して考え、お客様の方を向いて仕事をすることを外に置いて仕事をした気になってしまうことがあるように、――先人たちが築き上げた国のポテンシャルがもたらす快適さや便利さを享受できていることや、周辺国の不断の努力をついつい忘れがちで、下手をすれば本来必要な質量の、我々当事者が持つべき肝心な努力目標の基準も下がりがちになることも考えられます。

普通に考えると、このような今日本国民が享受できている状態を仮に既得権益と考えると、この既得権益を守ったり生活水準を引き下げないようにしていくためには、高い生産性や付加価値創出力(国際競争力)を向上し続けていくか、債務不履行(デフォルト)になるまで借金を増やしていくしかないようにも思えてきます。

 

あまりにも自分が外の世界のことを知らな過ぎることを痛感し、せっかく今のような時代を日本でタイムリーに生きている以上、グローバル競争時代に突入したことを肌で体感できるような機会を極力多く持ちたいと考えています。冒頭でご紹介したような異業種交流会やセミナーなどは他にも多く催されているようですので、今後も関心を高く持ってウォッチしていきたいと思います。

 

私たちの仕事も、お客様である企業を客観的に分析して、自社では気が付きにくい視点でWeb周りの改善提案などを企画立案、運用してゆくことがメイン業務となっています。自社の枠を飛び越えて、市場の中で俯瞰して自社を見つめ直すといった作業を外部化したい、Webサイトの構築や運用といった自社の本業外の業務は自社で抱えず業者に一括で委託したいとお考えの企業様がいらっしゃいましたら、是非一度ご相談ください。

 

BRICsはもちろん、インドネシアもタイもフィリピン、ベトナムも貧しいばかりだと思い込み、先進国である日本とは未来永劫に並ぶことのない国々であるという差別感情があなたの心の奥には存在していないでしょうか。(中略)そこで最も重要なことは心の奥に潜む、新興国に対する先入観や思い込みをいかに払拭できるかです。上から目線の商売は絶対に成功しません。

/『アジアビジネスで成功する25の視点』(財部誠一著)