再読、『クリック&モルタル』。 ~メディア激変時代、中小・ベンチャー企業の消費者コミュニケーションを再考する~

投稿者:小川 悟

2011/02/23 21:21

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ブランドは顧客経験のなかから生まれるのであって、「大声で宣伝すること」からではない。そして、顧客の得る経験は、一回の取引ごとに、それにとりつかれた文化の中で働く社員によって作られる。(中略)インターネットは物の見え方を変え、経験を変え、スピードを変える。だが、ビジネスの原則、すなわち行動の裏にある核心は、けっして変わることはないのである。

/『クリック&モルタル』(デビッド・S・ポトラック、テリー・ピアース共著)

電通が「日本の広告費2010年」を発表しました。

cf.「2010年の日本の広告費は5兆8,427億円、前年比1.3%減」(株式会社電通)

http://www.dentsu.co.jp/news/release/2011/pdf/2011019-0223.pdf

 

私たちの扱うインターネット広告費全体を見てみると、前年比プラス9.6%の伸張でありました。媒体別広告費の推移に目を移すと、既存マスコミ四媒体を中心に、直近5、6年だけをざっくり振り返ってみて思うのは、対2005年比で総広告費が85.6%、インターネット広告費が205.1%である中、新聞61.6%、雑誌56.4%、ラジオ73.0%、テレビ84.8%といった遷移であることが分かります。

この数字だけでは何とも言えませんが、「紙媒体」(原価が高い、エコに優しくない等の特徴)で特に減少傾向が顕著であるように見えます。各社、広告費だけが収益源ではないという見方もありますが、「構造不況」という言葉だけでは片付けられない数字のようにも感じました。まさに「メディア激変時代」と言っても誇張や煽動には当たらないのではないかと思う深刻な数字であると思います。

 

今になって当時を振り返るに、旧ライブドアや楽天が引き起こしたテレビ局買収問題によって、2005年は象徴的な年になったようにも思えます。

 

『週刊ダイヤモンド』(2011/1/15号「新聞・テレビ 勝者なき消耗戦」)に目を通すと、10年度に広告宣伝費の減少率が高かった上場企業の一覧が出ており、1位のホンダ(減少率:50.78%)以降、多くの大企業で広告費の更なる縮減が行われたことが分かりますが、こういったものがマクロ的な数字を動かしているのかと想像します。

 

昨年も電通のニュースリリースを引用したことがありました。

cf.「日本の広告費 2009年」発表、新聞を抜きテレビに次ぐ第2のメディアとなったインターネット ~マクロ環境から読み解く、「モノの流通」から「情報の流通」への大転換期~

http://www.web-consultants.jp/column/ogawa/2010/02/post-50.html

 

今になって改めて読み返してみて、カルチュア・コンビニエンス・クラブについて触れていたことを思い出しました。MBOによる上場廃止などで再びニュースで名前を見かけることが多くなってきたので、何の気なしに公開されていた四半期報告書に目を通していたところ、「クリック&モルタル」(cf.「クリック&モルタル」/Wikipedia)という表現を用いているのを発見し、極個人的な感傷ですが、懐かしくなって今回コラムを書くことにしました。

 

ちなみに、以前、再読、『ザ・ゴール』。 ~エリヤフ・ゴールドラット氏来日! ~”生産的”であるとは何か?~というコラムを書いたことがありましたが、特に「再読~」をシリーズ化しようと目論んでいるわけではありません(笑)。

 

この「クリック&モルタル」という用語が今でも日常的に使われているかは分かりません。この名称が一般に知れ渡ることになったのは、2000年に刊行された『クリック&モルタル(CLICKS AND MORTAR)』(デビッド・S・ポトラック、テリー・ピアース共著)という書籍でした。

※当時意識していませんでしたが、監訳は株式会社ビジネス・アーキテクツ様だったんですね(汗)。

 

この書籍はちょうど私の前職時代(中小企業・小規模店舗・個人事業主様を中心に、ECショップのASPの提供・サポートを行う企業で、ECショップオーナー様の元へ訪問して、社内LANの構築のお手伝いや、ASPの使用方法をレクチャーしたり、商品登録の際の写真撮影や説明文を一緒に考えたりする仕事をしていました)、ただでさえそれまでパソコン自体もロクに触ったこともなく、初めての内容の仕事で右も左も分からなくて、何をやってもうまくいかずに気分が塞いでいたときに、気分転換に立ち寄った書店で流行っていそうだったので購入した書籍でした。

当時の読後感を詳しく覚えてはいないですが、購入前は実店舗とネットショップをどう絡ませていくべきか?という手法を学んで、お客様に対するレクチャーの精度を上げたいと思って購入したのですが、実際に読んでみるとそういう内容でもなく「間違えたかな?」と感じたことを覚えています。しかし、一言で言えば元気をもらえた書籍で、業界のことやインターネット系の技術に詳しくなって安心したというより、自分の携わっている仕事に意味を見い出せ(虚業なんかじゃない!等)、そもそも自信を持てた良いタイミングになりました。知識や技術も重要ですが、それらはあくまでも目標達成やリスク防止、顧客説得材料のための一手段であって、それはそれで学びつつも、お客様と一緒にビジネスを考えていくこと自体が楽しくなっていったことに繋がったように記憶しています。

その後も、「パーミッション・マーケティング」や「One to Oneマーケティング」、「バイラル・マーケティング」等の書籍や用語が氾濫し、それを体現したような各種サービスが多くリリースされたものでした。

 

私たちのいるインターネット業界でも、新しい会社やサービスがどんどんと立ち上がり、競争が激化していっています。堅調に推移している業界と思われている部分もあるかと思いますが、私たち中小企業は、同じくお客様層である中小・ベンチャー企業様に、「いかに勝たせるか?」を徹底的に考えていかなくてはならないことには変わりません。市場が伸びているからと言って、何もせずにいては儲かるどころか衰退していくというのは当たり前ですが業界を問いませんし、当社も当社のお客様も同じだと思っています。

 

さて、2月1日、当社も賛助会員となっている「eビジネス推進連合会」主催でeビジネスカンファレンス2011が開催され、当社CS本部のマネージャーに参加してきてもらいました。

※私自身が参加しておらず、聞きづてで申し訳ありません(汗)。

 

セミナー参加報告書を見るに、ヤフー株式会社、楽天株式会社、株式会社スタートトゥデイの代表者ら識者によるパネルディスカッションをメインとして進行したものだそうです。

パネリストの会話の中で頻繁に出てきたキーワードは、「海外展開」「ソーシャル」「スマホ(スマートフォン)」だったそうで、「ソーシャル」については昨今、映画『ソーシャル・ネットワーク』が話題となって牽引したこともあって、注目すべきキーワードかと思いました。

三木谷氏曰く、「自分1人で購入を決める一人称マーケティング、売り手の薦めで購入を決める二人称マーケティングから、クチコミ、友人など第三者の薦めで購入を決める三人称マーケティングへ」とのことです。

確かに、Facebookやmixiの特徴を引き合いに出しても、実名/匿名と勝手に切り分けられていますが、どちらも人と人との繋がりを重視した「ソーシャル化」の波を牽引しているし、今後もこうしたサービスによって、現実とネット社会との境目がどんどんなくなっていくのかもしれません。

 

これと近しいことは、電通が「SIPS」という用語を提唱し、「情報伝播のコアが、世代から「友人・知人とのつながり」へと移行し始めている」と書いています。

cf.「SIPS」

これからのソーシャルメディアが主流となる時代の生活者消費行動を『共感する : Sympathize → 確認する : Identify → 参加する : Participate → 共有・拡散する : Share & Spread』と整理した概念。

 

後日、「eビジネス白書2011本編」(PDF資料)が配布されました。楽天株式会社の創業者で代表取締役会長兼社長、及びeビジネス推進連合会会長の三木谷浩史氏は、その冒頭「eビジネス白書発刊に寄せて」において、以下のように述べられています。

2010年の日本のe ビジネス業界は非常に話題多き年でした。グローバル化、ソーシャル、スマートデバイスなど、様々なトレンドやキーワードが登場しました。後に振り返っても、2010 年は重要な地殻変動の年だったと位置付けられるかもしれません。

 

TwitterやUstream、Facebookなど、海外勢による新たなサービスの浸透によって、インターネット市場の中でもその構造は変わりつつあります。

この数年で、多大な資本と労力をかけテレビ局を買収せずとも、テレビ局並みの影響力を持つ動画サービスの提供が可能になる条件が揃った。

/『週刊ダイヤモンド』(2011/1/15号「新聞・テレビ 勝者なき消耗戦」)より抜粋

 

上記にも書かれていますが、昨年、宇多田ヒカルさんのライブがUstreamを使って無料配信され話題になったことがありましたが、視聴者はその数なんと35万人にも及んだそうです。同じ頃、60年ぶりの大幅改正となった改正放送法が成立し、従来「放送」と「通信」といったように切り分けて語られていたインフラも、今後一層境がなくなってゆくのではないかと言われています。

 

また、先日のNHKスペシャルネットが“革命”を起こした~中東・若者たちの攻防~を見ても、いわゆる「ジャスミン革命」の中で、それらの新サービスが波紋を拡げた要因となったという編集がなされていました。一昔前まではその役目は別の媒体が果たしてきたものと思いますが、ネット社会になり、より個人間の情報流通は密になったようにも感じます。それもあってか、今でも集団・徒党を組むことを嫌う社会主義国などでアクセス制限を設けている国もあります。

 

このような世の中全体の流れの中で、私たち中小・ベンチャー企業は、どのように泳ぎ渡っていけばよいのかという話ですが、当社お客様も一部を除いては、多くの企業様でまだまだマス(大衆)に向けた宣伝広告というよりは地域などを特定した販売戦略が主流です。そこを飛び越えていきなりマスにいっても、宣伝広告効果が薄れてしまい、費用に釣り合いません。見込みの高いターゲットからのリードジェネレーションについてまだまだ科学・議論する必要性は大いにあると思いますし、広告の大事な受け皿となるWebサイト自体の改善なども残っています。

 

その際に重要となるのは、お客様である社長様やご担当者様間でのコミュニケーション、お客様とお客様のお客様とのコミュニケーション、そして当社とのコミュニケーション(当社内のコミュニケーションは当然として)といった「人と人との繋がり」であって、そういったものが潤滑に流れて初めて強みを生かし合った経営、戦略が図れるのだと信じています。

 

来月3月は当社第10期の締めの月になります。まだまだお客様に提供すべき価値は磨き上げていく必要性を大きく感じています。当社10年目の節目、これからの10年も企業文化を大切にして、お客様と共に成長していく時代にしていきたいと強く願っております。

引き続きどうぞ宜しくお願い致します。