2010年を振り返って ~難問が多く決めにくい時代、強い意志と実行力、説明責任の重要性を感じた一年~

投稿者:小川 悟

2010/12/23 16:30

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独裁政治では、一人が決める。貴族政治では、数名が決める。民主政治では、誰も決められない!

/『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性』(高橋昌一郎著)

いよいよ2010年も残すところ僅かとなってきました。

この時期となりますと、インターネット上の記事を見ても、テレビや雑誌を見ても、流行語大賞今年の漢字、「10大ニュース」など、2010年を振り返る恒例の総集編企画の内容のものが増えてきて、改めていよいよ年の瀬を感じる今日この頃です。

今日のコラムでは、私も本年最後のコラムとなりますので、2010年の出来事を社内外織り交ぜながら、お世話になりましたお客様・お取引先様へ感謝の気持ちを込めつつ、来年の抱負などについてお話できればと思います。

一年を社内外のニュース、公私織り交ぜながら振り返る試みで、ともすると、とりとめのない話が続くかと思いますが、どうぞ最後までお付き合い下さい(汗)。

 

 

今年1月のコラム(「2010年、フリーセル創業10年目という節目、お客様に感謝の気持ちと原点回帰の想い」)を振り返ってみますと、そういえば、2009年は横浜開港150年、2010年は韓国併合100年の年にあたり、NHK大河ドラマや人気の歴史/時代小説のドラマ化でも関連してか『坂の上の雲』、『龍馬伝』、『蒼穹の昴』といったように、それぞれ主人公たちは異なるものの、いずれもほぼ時を同じくして動乱の世の中を駆け抜け、時代に名を残した人物たちが織りなすドラマが立て続けに放映され、私も改めて幕末・開国期の日本に興味を抱いたものでした(cf.「インターネットがもたらす第三の開国の夜明け前 ~2009年、横浜開港150周年~」)。

 

先月のコラムでも少し触れましたが、尖閣問題に揺れる内憂外患の状況下、11月のAPEC首脳会議での首脳宣言「横浜ビジョン」においては「平成の開国」が唱えられ、週刊ダイヤモンドの最新号(特集「総予測2011」)表紙の見出しには、それに呼応するかのように「開国か鎖国か」というコピーが踊りました。まさに開国か鎖国か、政局に頼るだけでなく、私たちで何かできることはないかと深慮することの多かった1年でもありました。

 

全地球規模の話で言えば、京都議定書の延長問題を含む地球温暖化問題や(cf.「チャレンジ25」)、国連が2010年を「国際生物多様性年」と宣言し(cf.「国際生物多様性年×COP10」)、10月に名古屋で開かれた国際会議にて名古屋議定書が採択されたニュース等、環境問題やCSR、グローバリズム(あるいは、グローバリゼーション)に対する一般の人々の関心が高まった年でもあったかと思います。その「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」名誉大使には、アーティストのMISIAさんが選ばれました。

 

私事ではありますが、それに関連したお話をしますと、MISIAさんが歌われたテーマソング「LIFE IN HARMONY」をプロデュースしたのは、世界的な音楽プロデューサーのデヴィッド・フォスター氏でしたが、幸いにも私は10月に行われた「DAVID FOSTER & FRIENDS JAPAN TOUR 2010」にて、サプライズゲストとして招かれたMISIAさんが歌う「LIFE IN HARMONY」を生で聴く機会に恵まれました。

デヴィッド・フォスター氏の来日は、日本武道館で行われた「JT SUPER PRODUCERS ’94」以来16年ぶりのことで、16年前と言うと私が大学1年のときで、その来日公演には残念ながら行くことができませんでした。当時はまだギターに明け暮れていた頃ですが、氏の良き相棒とも言うべきギタリスト、ジェイ・グレイドンに憧れて後日私も購入することになる、氏が使用していたValley Arts社(1992年にサミック社傘下、2002年にギブソン社傘下へ移る)製のギターを、毎日のように御茶ノ水の楽器店に見に行っていた頃で、そういうところからも大変楽しみにしていた公演でした。

 

cf.「COP10名誉大使MISIA就任メッセージ」(YouTube,「環境省動画チャンネル」)

 

閑話休題、後半でも延べますが、暗いニュースが多い中で明るいニュースも多かった一年でした。ワールドカップでは世界の16強に残り、当社でもその後、フットサルの社内公式大会が開かれるに至るほどでした。

また、「今年の漢字」で選ばれた「暑」で言えば、小惑星探査機「はやぶさ」の偉業も含められていました。私も思わず、多くのプラネタリウムで上映されていた、DVD『HAYABUSA BACK TO THE EARTH』を購入してしまった程です。アポロ13のときは「輝かしい失敗」(cf.「失敗体験を通して創造力を生み出すために ~アポロ月面着陸40年、世界天文年2009~」)などと言われましたが、「はやぶさ」は、まだ調査は残っているものの、れっきとした「大成功」でしたね。地球へ帰還し機体が燃え尽きて消えてしまう様は多くの人々の感動を誘いました。また、事業仕分けの影響で予算が削られた中、日本の科学技術力や製造業の底力を見ることができて勇気づけられました。ノーベル賞も、化学賞で鈴木章氏と根岸英一氏によるダブル受賞で湧いていましたね。

 

そういえば、中国で開催された上海万博で思い出したように『日本万国博 《40周年記念》』というDVDのセットを購入したものでした。日本万国博覧会――、通称「大阪万博」は、今からちょうど40年前の1970年に、国際博覧会史上アジアで初めて開催された日本で最初の国際博覧会でしたが、アメリカ館では、前年にアポロ11号が持ち帰った月の石を展示し、話題になった万博でもありました。

期間入場者数累計6400万人(1日あたり最多入場者数83万人)を記録、退場は深夜になっても終わらず、ついに5000人程が会場内に取り残され、一晩を明かすことになったエピソードで有名です。

その時代の日本はちょうど、翌年のニクソン・ショックやオイルショックを前にして、第二次高度成長期末期に差し掛かっていた時期で、万博会期中には大きなハイジャック・シージャック事件が、会期後には三島由紀夫が自決する等の政治・思想的な騒動もありながら、一つの時代の節目、変わり目にあった時代でもありました。

丹下健三がプロデュースに関わり、モニュメントには岡本太郎の「太陽の塔」があしらわれ、開会式では昭和天皇や佐藤栄作元首相が祝辞を述べ、テーマソングとして三波春夫の「世界の国からこんにちは」が流れていた時代です。大阪万博以降の生まれの私にとっては、残念ながらその熱狂的なカオス、アウラを感じることは出来ませんが、経済成長を遂げてきた時代の日本を振り返れることができ、これにもまた元気をわけてもらうことができました。

 

今の時代は、当時の日本と同じくらい経済成長を遂げている新興国の方が元気があるようですね。BRICS5全体での時価総額は70年代の頃の日本と同規模と言われますが、BRICsやNEXT11のような昨今経済成長が著しい国々の動向を横目に、日本もこんなところで負けていられないと今一度奮起したいところです。

 

また、この時期はビジネスシーンにおいても、例えば電通、博報堂、野村総研といった大手広告代理店やシンクタンクからも、消費者動向に関する各種レポートが発表される時期でもあります。

 

cf.

■電通総研 『消費気分調査』レポートVol.8(電通)

http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010124-1222.pdf

■「世の中」と「身の回り」の経済状況についての意識調査 経済気分2011(博報堂)

http://www.hakuhodo.co.jp/pdf/2010/20101222.pdf

■2015年度までのIT主要市場の規模とトレンドを展望(1)、(2)(野村総合研究所)

http://www.nri.co.jp/news/2010/101217.html

http://www.nri.co.jp/news/2010/101220.html

 

平成大不況に追い打ちをかけるように2008年に起こったリーマンショック以降、大手企業を中心に緩やかに回復基調にあるものの、10月1日時点での新卒者の就職内定率は全国平均で57.6%と過去最低記録を更新し、市況に比例して雇用不安が拡がった年でもありました。ちなみに、私の就活期は戦後最大の負債総額3兆円と言われた山一証券の自主廃業などがあった年で、その年よりも厳しいと言われる今の状況はとても深刻に感じたものです。そういった意味でも、私たち中小・ベンチャー企業にとっては、まだまだ予断を許さない時期が続いているのも事実でしょう。

 

それから、インターネットやデジタルマーケティング絡みの時事で言えば、電子書籍元年、デジタルサイネージ元年と呼ばれたり(cf.「電子書籍元年、Web社内報に推薦図書コーナーを設置 ~人財力・組織力向上に向けて、自己投資としての読書を推進~」)、スマートフォンの隆盛があったりと人々のライフスタイルも様変わりしかけている最中で、Yahoo!JapanがGoogleの検索エンジンを採用したり、ソーシャルゲーム課金という「フリーミアム」なビジネスモデルで莫大な利益を稼いだDeNA、GREE、mixiを中心としたSNS(Social Network Service)や、そのSNSやスマートフォンといったプラットフォーム上で提供されるゲームアプリ、TwitterやFacebookなどのインターネットサービスが一層の隆盛を極めた年でもありました。当社もTwitter公式アカウント( http://twitter.com/freesale )を開設、公開したものでした。

 

cf.映画『ソーシャル・ネットワーク』予告編
http://www.youtube.com/watch?v=exQjAXAQk1A

 

そうした中、直近の私の身の回りの出来事で言いますと、11月に、株式会社リンクアンドモチベーション主催の経営セミナー『変化を生み出すモチベーションマネジメント』 『成長するしかけを会社に創る』 を聴講しに行って参りました。前者を同社代表取締役社長の小笹芳央氏が、後者を株式会社サイバーエージェント取締役人事本部長の曽山哲人氏がされていました。私は小笹氏の著書数冊、曽山氏の著書2冊を拝読させて頂いておりましたので大変興味深く聴講させて頂きました。他に参加された方々ともお話させて頂きましたが、経営者の方も多く、一般的にどこの企業様においても人材育成に対する関心が高いことが窺い知れました。

 

セミナーの本題からはそれるのですが、私が興味を持ったのは、小笹氏の講演の中で引用された「パウロスの全員当選モデル」でした。

私がセミナー後に参考にしたのは、冒頭にも挙げた『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性』(高橋昌一郎著)です。民主主義の基本原則として多数決による意思決定があると言われます。確かに私たちの暮らす日常社会において、何かを決める場面には幾度も遭遇します。社会的なもので言えば選挙やオリンピックの開催地決定など、身近なところで言えば、本書にも出てきますが、友人間で行きたい旅行先を決定する場合など。

実は何かを決める際の方法に、(本書によれば)「単記投票方式」、「上位二者決戦投票方式」、「勝ち抜き決戦投票方式」、「複数記名方式」、「順位評点方式」などがあって、パウロスの全員当選モデルを説明した項では、立候補者5名がそれぞれの採択方式を主張することで、全員が「私が選ばれるべきだ」と主張できる状況になってしまうケースを紹介していました。「真に公平な選出方法は存在するのか?」と考え込んでしまいます。

セミナーでも類似したケースでグループディスカッションが行われましたが、グループによって解答や解の導き方が異なりました。これだけの小集団であっても、考え方次第で意見が分かれることを目の当たりにしました。しかもどれも誤った考え方ではなく、正当な選出方法であったにも関わらずです。

 

これと同じような議論が、別方面で話題になっています。『これからの「正義」の話をしよう』で今年一躍有名になった、ハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏の講義がそれです。

cf.【NHKオンデマンド】ハーバード白熱教室パック 全12回

http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2010600391PA000/

 

講義の模様は上記で見ることができますが、私も東京大学行われた「ハーバード白熱教室」の回はテレビで見ていました。サンデル教授の巧みな話術とファシリテーションをベースとしたディスカッション形式で進行してゆく風変りな講義スタイルでしたが、氏が次々に投げ掛ける質問のすべてが、いろんな人の意見を耳にする内にどちらが正しいのか分からなくなってしまうような難問ばかりで、日本の最高学府である東京大学の学生の間だけでも意見が割れることが多かったです。最終的にサンデル教授は講義の中で言いますが、各自の立場や主義で正しいことが何なのか異なる場合があるが、そのときに重要なのが哲学とディベートであるとのことでした。

いろいろな立場の人やいろいろなことが複雑に絡み合い、難問ばかりが積み重なった現代社会において、そのメッセージは羅針盤のように正しい考え方を育んでくれそうで、どんな問題に直面しても、しっかりと考え、話し合いを重ねることで解決していこうという気持ちが芽生えてきます。

 

思い返せば、私の就活期にも今と同じように哲学や自己啓発系の書籍が売れた記憶があります。私のときで言うと『ソフィーの世界―哲学者からの不思議な手紙』(ヨースタイン・ゴルデル著)などがあったでしょうか。こうした本は、周囲の事象がものすごい勢いで変化して、自分自身が環境適応できずに自分自身の座標を見失って、どこに向かうべきなのか、そもそも自分はどこにいるのか?といった気持ちになったときに、ゆっくりと自分自身を見つめ直す自己考察の時間と、正しい方向性を示す羅針盤を求めて思わず購入したくなるのでしょうね。

 

『これからの「正義」の話をしよう』も『ソフィーの世界―哲学者からの不思議な手紙』もベストセラーとなりましたが、関連して言えば、何と言っても今年一番のベストセラーとなったビジネス書は、「もしドラ」――『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海著)でしょう。ダイヤモンド社創業97年目にして初めてのミリオンセラーと言われていますが、ミリオンセラーどころか累計発行部数は既に200万部を超える勢いと言われていますね。トーハンの発表した内容によれば、単行本、新書などを合わせた年間のベストセラーで総合1位だそうです。

 

奇しくも2009年はドラッカー生誕100年の年でしたが(cf.「「経営コンサルタント」誕生から五十余年 ~ピーター・F・ドラッカー生誕百年、「マネジメント」を再考する~」)、こんなところからも、やはり今の時代というのは、しっかりとマネジメントができるリーダーが渇望されているのかと感じたものでした。

 

 

さて、まもなく終わりにしたいと思いますが、皆様にとっての2010年はどんな年でしたでしょうか?難問が多く、決めにくいようなことも多かったことと思います。しっかりと決断を繰り返して今に至るという方もいるでしょうし、問題を先送りにしてしまい来年に引きずってしまうという方もいるかもしれません。

 

私たちも仕事柄、自分自身が悩むこともありますが、お客様である中小・ベンチャー企業の経営者様でも、大いに悩まれている方も多い時代であるとも言えるかもしれません。今年度より始めた顧客満足度調査の定期実施により、お客様の生の声を幾つも頂戴することができ、中には厳しい意見もございましたが、多くのお客様に喜んで頂けていた事実を知ることができ随分と励みになったのと同時に、課題も明確になりましたので、今後は重点的に業務改善を行い、早期にお客様へフィードバックが行える体制を築いていきます。

 

2011年は創業丸10年を迎える節目の年でもあります。私たちが自社の強みとするWebコンサルティングは、お客様にとって経営戦略の一部かもしれませんが、その分野ではより一層の強い介在価値を発揮して成果をあげていけるように来年度も邁進したいと思います。

 

現在お付き合い頂いている数十社のパートナー企業様からも、当社企業理念をご理解頂き、かつてないほどに目的意識を一つにした体制が築けてきています。来年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

 

最後に冒頭のエピグラムを受け、結びに変えて。

アダム・スミスは言った

 

最良の結果は――、

グループ全員が自分の利益を追求すると

得られる

 

間違いだ

 

最良の結果は――、

全員が自分とグループ全体の利益を求めると

得られる

 

/ジョン・ナッシュ、映画『ビューティフル・マインド』より。