インターネット全盛の時代にこそ『孫子の兵法』を ~ソフトバンクアカデミア開校、「ソフトバンク 新30年ビジョン」を視聴して感じたこと~

投稿者:小川 悟

2010/08/15 13:49

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人類の歴史は戦争の歴史である。(中略)孫子は戦争のなくならない現実をしかと見すえ、戦争の惨禍を極力少なく抑える道を模索した。それは武力に頼って敵を殲滅するのではなく、勝つことより負けないことを主眼に置き、武力以外の要素も使って敵を屈服させることであった。これがいわゆる「戦わずして勝つ」という孫子兵法の要諦に他ならない。

/『図解雑学 孫子の兵法』(水野実著)

先月末、Yahoo! JAPANから、Yahoo! JAPANの検索サービスにおけるグーグルの検索エンジンと検索連動型広告配信システムの採用という突然のニュースリリースが出され、当社内でも情報が錯綜し、Yahoo! JAPAN側からとGoogle側からの情報収集で慌しくなったことがありました。

この件については、CS本部の松谷がコラムに書いているので詳細は割愛しますが、もしかしたら米Yahoo!の動きに合わせてBingの採用もあるか?と考えられていたところもあったため、勝手な憶測も多く流れたものでした。

これについてヤフーの井上雅博社長は「別に、Microsoftが嫌いとか、Bingがダメとかではない。何社か検討した結果だ」と回答する記事があり、そう言われるとそういう選択も可能性としてなかったわけでないことから納得してしまう部分もありました。

 

cf.

・Yahoo! JAPANの検索サービスがGoogleの検索エンジンを採用│松谷 幸紀

http://www.web-consultants.jp/column/matsuya/2010/07/yahoo-japangoogle.html

・「『検索の9割がGoogleに』は誤解」 ヤフー井上社長、検索提携を語る(ITmedia News,2010年8月2日)

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1008/02/news086.html

 

そして、ちょうど先のリリースが出された翌日の28日、以前より話題となっていたソフトバンクアカデミアが開校しました。

この開校自体が孫正義氏の後継者の発掘と育成を目的としたもので大変興味深いのですが、今回ご紹介したいものは、この開校を宣言した、今年6月に開催された、「新30年ビジョン発表会」における孫氏のスピーチです。

 

※「新30年ビジョン」スピーチ動画(ソフトバンク株式会社)
http://www3.stream.co.jp/www11/softbank/ja/press/20100625/index.html
http://www.softbank.co.jp/vision/

 

このソフトバンクの「新30年ビジョン」、2時間以上に及ぶ孫氏の講演ですが大変見応えのある内容で、私は休日に一気に視聴してしまいました。皆さんはお聞きになられましたでしょうか?

この中で孫氏は自身がやり遂げたいビジョンを一言で表すと「情報革命で人々を幸せに」と言いました。全部聞き終えてから今回のGoogleとの取り組みを想像すると、ある種必然だったかもしれないとも思えてきます。

また、以前もコラム(『クロニクル「インターネット業界10年史」 ~まるでビッグバンのように、超高圧な一点の意志からその広大無辺な市場は生まれた~』)で書きましたが、情報革命のただ中に生まれたという点で、属する業界問わず現代のビジネスシーンで自分の可能性に挑戦できることは幸せであると考えたいです。

 

今回のコラムでは、この「新30年ビジョン」をきっかけとして、動画の中で語られている『孫子の兵法』を中心とした考え方を自社の戦略に活かす方法について模索していきたいと思います。

 

19歳、あるいは20代の創業時に「事業五十年計画」を立てた孫正義氏は、『孫子の兵法』関連の書籍30冊以上に目を通したと言います。そんな孫氏が20代後半に生死に関わるような大病を患い入院することになり、その間に試行錯誤して原型が作られたという「孫の二乗の兵法」として有名な孫氏の経営指針、すなわち、中国春秋時代の『孫子の兵法』と自身(孫氏)の考え方を掛けた5文字×5文字の漢字で構成された文字盤――、

 

一流攻守群
道天地将法
智信仁勇厳
頂情略七闘
風林火山海

――上記一つ一つの漢字に深い意味と強い目的意識を持って事業家人生を送られてきました。

先のスピーチの中では、

 

道天地将法
頂情略七闘
一流攻守群
智信仁勇厳
風林火山海

と、順番が入れ替えられました。

 

これは、上段より「理念」、「ビジョン」、「戦略」、「将の心得え」、「戦術」といったようにグルーピングし、優先順位順に並べ替えたそうです。そうすることで決断のスピードが上がると孫氏は言います。確かに、ビジネスは迷いと決断の連続である中で、即断即決を求められるケースばかり出てきます。自身の中に確固とした経験に基づく考え方、優先順位、勝ち癖がないとなかなか出来なそうなものですが、「新30年ビジョン」に「迷ったときほど遠くを見よ」とありますが、このように自身の考え方をまとめておくと、いざというときに応用が利きそうな感じがしてきます。

 

「孫氏の兵法」と聞くと、戦争に「いかに勝つか」について書かれた戦術書のような印象がなくもないですが、実際にはその逆で、「いかに負けないか」についてが書かれていると言われます。その真意は、「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」という言葉に表れています。

しかし、タイトルにも付けた「戦わずして勝つ」は、単に争わないというだけの意味ではもちろんありません。『最強の孫子―「戦い」の真髄』(守屋淳著の中で、分かりやすく説明された一節があります。

 

(1)ライバルは一者だけではない

(2)直接対決が長引けば、お互いに疲弊(国力、財政、体力、精神力……)していく

(3)二者間で激しく消耗してしまうと、第三者に漁夫の利をさらわれかねない

 

この考え方を、冒頭に書いた、Yahoo! JAPAN側が提携先にGoogleを選んだ必然性を考えると、「孫の二乗の兵法」の考え方(上記)、「新30年ビジョン」における理念優位の指針、「クラウドを人類最大の資産にしたい」という意向etc……といったものや、その他企業の戦略上の考え方が掛け合わされた結論だったのではないかとも思えます。

つまりガチンコ勝負をすれば一つの争いに勝つのかもしれないが、(分かりやすいところで言えば価格競争ですが、)その後体力の消耗戦となり、結局は経営が立ち行かなくなったり、お客様も従業員も嬉しくない現実を招いてしまうかもしれない、そういった考え方があっても良いと思いました。

 

それではなぜ今、『孫子の兵法』と私が考えるのかということですが、これはあくまでも私見であって、そもそも今に始まったブームでもなく、今から2500余年前、三国志よりも前の時代から近年の著名な経営者に至るまで読み継がれている書物です。

私が思うのは、今のようなインターネット全盛の時代は――、少し前の言葉で言えば「フラット化する世界」化したグローバルなインフラを有する市場は、孫子(孫武)が生きた春秋時代に覇権を争った武将・智将たちが舞台としていた広大な土地をも彷彿とさせるということです。

同じ商圏内にある同業他社との消耗戦でそのときは辛勝しても、その後、求められる真の試練を乗り越えられなければ本来のビジョンは果たせないのではないかということです。もちろん負けられない戦はありますが、本当に重要なのは自社を持続可能な会社、そして常に成長し続けることができる会社にしていくことだと思います。

 

「兵を用うるの法は、国をまっとうするを上となし、国を破るはこれに次ぐ」――、

 

私たちの業界のように、中小・ベンチャー企業が新規でWebサイトを立ち上げ、新たな市場・顧客を創造・獲得していくにあたり、ライバル社が多数の場合にはそれなりの戦い方がある筈で、九地・九変を見極めてどのように戦うのかしっかり準備してから臨みたいものです。

私たちも是非、幾つかの戦い方の中で、お客様ごとの置かれた自社・競合・市場環境(3C)を見極めつつ、その市場においてアドバンテージを持っていくためにどうすれば良いかといったことをご提案しながら、この情報革命のさなか、共に成長していきたいと思います。