年末商戦突入、2009年ヒット商品発表! ~ユニクロ快進撃、不況の中を売り抜く「企業理念」の力~

投稿者:小川 悟

2009/11/15 13:59

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ユニクロの急成長は、あくまで企業理念を実現しようとして、全社一丸となって精一杯努力した結果であり、ブームは会社側でコントロールできるものでもない。

/『一勝九敗』(柳井正著)

今年2009年は、「100年に1度の不況」と言われています。しかし、そうした時勢の中でも売れているものはあります。不況下においても売れているものの共通点を見出すことは難しいかもしれませんが、うまくいっている企業やサービスとうまくいっていないものを比較することで見えてくることもあるのではないかと考えます。

今年も11月に入り、毎年恒例の、雑誌『日経トレンディ』が選ぶ「2009年ヒット商品ベスト30」が発表される時期となりました。日経MJの「ヒット商品番付」は来月ですね。

 

ちなみに2007年度の「ヒット商品番付」で東の横綱に輝いた「ニンテンドーDS」&「Wii」 は鮮明に覚えています(cf.「ヒット商品番付」/SMBCコンサルティング)。翌年の新卒を迎え入れる際に行ったオリエンテーションで私は、新卒入社者の学生気分を楽しく抜いてもらおうと考え、身近な「ニンテンドーDS」&「Wii」をテーマにグループセッションを行ってもらいました。正式に各部門に配属となる前でしたが、以前のコラムでも触れた、「PEST分析」(「Politics(政治)」、「Economy(経済)」、「Society(社会)」、「Technology(技術)」)、それからマーケティングの4P(「Product(製品)」、「Price(価格)」、「Promotion(プロモーション)」、「Place(流通)」)といった側面から、「なぜ売れたと考えるか?」について自由連想方式で考察・発表してもらったのでした。正解があって行った企画ではなくて、「社会人って面白いかも!」と思ってもらうことと、学生までは「消費者の立場」で見ていたものが、社会人になると打って変わって「サプライヤーの立場」になることを体感してもらいたかったという「頭のスイッチを切り替える」ことが主旨のものでしたが、他チームの発表を共有して意見を述べたりと、一様に楽しんでもらえたようだったと記憶しています。

さて、そんな「2009年ヒット商品ベスト30」、今年の1位は「プリウス&インサイト」でした。民主党政権に変わり、マニフェストにも掲げられた「地球温暖化対策」や、エコカー減税・補助金による特需なども踏まえ、2009年という時代を感じさせる結果となりました。

 

今回のコラムでは「2009年ヒット商品ベスト30」でTOP10にランクインし、今週19日にテレビ東京系列ルビコンの決断で特集が組まれることとなったユニクロ、及びセカンドブランド、ジーユー(今年で創業60周年となった株式会社ファーストリテイリングの完全子会社GOVリテイリングのブランド)の「990円ジーンズ」に着目してみたいと思います。

ユニクロとしては昨シーズン、主力アイテム「ヒートテック」を2800万枚売り上げ、今シーズンは5000万枚を目指しているということで、まさに国民服の地位を得ていると言えるかもしれません。大企業の冬のボーナスが過去最大のマイナス幅である15.9%減と言われる中、そうした快進撃を進めるユニクロの年末商戦を控える前の動向を洞察してみるのも何か参考になるかもしれないと思い、書いてみたいと思います。

 

まずユニクロと聞くと思い出すのが、今から10年前の99年にオンエアされた、山崎まさよしさんを起用した秋冬のフリースのCMです。98年に東京・原宿に進出して一気にユニクロ・フリースブームが席巻しました。一昔前までこの手のファッションをリードしていたのはGAPだったように思いますが、現状ではユニクロがリードしている状況でしょうか。今や、少し前までは高級ブランド店の出店・改築ラッシュがあり、世界を代表するブランドストリートと呼ばれた原宿・表参道一帯には、ZARA(2002年4月)、H&M(2008年11月)、FOREVER 21(2009年4月)と、比較的に商品単価の安価な海外勢が立て続けに進出し、新たな要素が加わったような印象です。

また、渋谷でも2009年9月に元々ブックファースト渋谷文化村通り店があった場所にH&Mがオープンし、ユニクロも来春に道玄坂「ザ・プライム」への出店を検討中と聞きます。先月のベルサーチ日本事業撤退やヨウジヤマモトの民事再生法の適用申請と、かつて西武グループが進めた「セゾン文化」隆盛の時代、DCブランドブームの起こったバブル期を代表する名門ブランドと比べると対照的です。

そんなユニクロが98年の夏に全国紙に出した全面広告のキャッチコピーが、「ユニクロはなぜ、ジーンズを2900円で売ることができるのか」でした。それから10年を経て、ジーンズはついに3桁で販売されるようになりました。これはもちろん、単に利幅を減らして値下げしましたという話ではなく、品質は向上させながらコストダウンを図るというイノベーションの結果であることが様々なところで書かれています。ところが、ジーユーが990円ジーンズを発表した後の5月にはセブン&アイHDが980円で、その後立て続けに、8月にはイオンが880円で、9月にはダイエーも同額で、10月には西友が850円で、さらに同月ドン・キホーテは690円でジーンズ市場に参入。一見、ジーユー(ファーストリテイリング)がジーンズの価格破壊の引き金を引いたかのようにも見え、ジーンズ市場にコモディティ化が起こりかけているようにも思います。今後、ジーンズに1万円以上払って購入する価値観を消費者に与えるための「付加価値」を加えることに大きな障壁ができたようにも思います。まさに茨の道を選択したようにも感じました。

なぜなら、ユニクロ(ファーストリテイリング)はほぼカジュアルウェアに特化していますが、大手スーパーはカジュアルウェアがすべてではないにも関わらず、この価格競争に参戦したことにはおそらく大きな決断が陰にあると思われるからです。つまり今回取った選択によって、今後ずっと「良い物を安く」という品質基準を守り続けていかなくてはならないという縛りに拘束され続けることを覚悟したと思われるし、そうなると大手スーパーとしてはこの競争から離脱しないために、カジュアルウェアに対して、今をしのぐためだけの戦略でなく、過去・未来と一貫したこだわりを持ったマーケティングを今以上に強めていかなくてはならず、また、このように選択集中する商品対象が増えれば増えるほど、その維持向上のためにコストをかけ、組織を固める必要があると思うからです。

低価格という差別化戦略は不況の時期には消費者ウケが良いと思いますが、低価格ということは、いくら原価を下げたとしてもその分限界利益率の振り幅は小さくなり、より社会の動向や市場の変化に対して敏感にならなくてはならなくなることを意味してはいないでしょうか。ある程度利益率を保った価格設定をしておけば少しの失敗(原価高騰、売上げ鈍化等)は吸収できると思いますが、ギリギリのラインでやっていると少しでも経営や時代のニーズを読み間違えば一気に赤字に割り込んでしまいそうな印象があります。例えるなら高速で運転するF1ドライバーのようなイメージです。

 

以上のように、ジーユー(ファーストリテイリング)が口火を切ったジーンズの価格競争、この年末商戦を越えて各社はどのような結果に落ち着くのでしょうか。価格だけで見ればジーユーが一番不利のようですが、「価格」「品質」とほぼ並んだときにジーユーが一歩秀でているように見えるのが、ユニクロの「ブランドイメージ」でしょうか。ユニクロはプロモーションにおいても有名人を起用したり、「UNIQLOCK」で世界三大広告賞(One Show,クリオ賞,カンヌ国際広告祭)でそれぞれ受賞歴があったり、他にも障害者雇用やフリースの回収・リサイクル事業等、CSRの側面でも余念がないというか、大手スーパーのPB(プライベートブランド)と比べると、独立した衣料品店として確固とした理念を掲げて事業を推進しているように見えます。

 

ユニクロの経営理念に「いかなる企業の傘の中にも入らない自主独立の経営」というものがあるのが興味深いです。冒頭でご紹介した『一勝九敗』の中で、「当社は以前、紳士服店をやっていたが、取引をしていた紳士服メーカーのほとんどが商社に吸収されたり、廃業や倒産の憂き目にあった」と書かれています。また、柳井正氏のお父様がVANの商品が好きでVANショップを経営していたそうですが、「カジュアルウェアに親しむきっかけとなったことは確かだ」とも書かれていることからも、故石津謙介氏が経営されていた株式会社ヴァンヂャケットが1978年に負債総額500億円を抱えて倒産する直前、経営再建のために商社が介入し、それまで独自路線を突き進んできた「VAN」ブランドが市場に埋もれてしまったエピソードなどの過去の体験と何か関連がありそうですね。

 

最後になりますが、冒頭で『一勝九敗』を引き合いに出していますので、失敗のエピソードも書いておきたいと思います。

ファーストリテイリングがかつて、野菜の販売事業から撤退(子会社の野菜販売店「スキップ」)した経緯を持っているのは有名だと思います。他にも、スポーツカジュアル衣料品店の「スポクロ(スポーツ・クロージング・ウエアハウス)」、ファミリーカジュアル衣料品店の「ファミクロ(ファミリー・クロージング・ウエアハウス)」の撤退などあります。本書で柳井氏は、以下のように書いています。

世間一般には、僕は成功者と見られているようだが、自分では違うと思っている。本書でも触れたように、実は「一勝九敗」の人生なのだ。勝率で言うと一割しかない。(中略)もし、これでも成功と呼べるのなら、失敗を恐れず挑戦してきたから今の自分があるのだろう。

そして二十三条ある経営理念の第十三条には「積極的にチャレンジし、困難を、競争を回避しない経営」とあります。その他にも、この不況下で今一度力を振り絞って頑張らなくては!と思えるような理念が多く書かれています。今伸びている企業の経営理念に目を通してみるのも参考になるかもしれません。結びに変えて。