電子書籍元年、Web社内報に推薦図書コーナーを設置 ~人財力・組織力向上に向けて、自己投資としての読書を推進~

投稿者:小川 悟

2010/02/11 16:23

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ニューヨーク公共図書館は、単に本を借りるための場所ではない。名もない市民が夢を実現するための「孵化器」としての役割を果たしてきた。ここからは、アメリカを代表するビジネス、文化、芸術が数多く巣立っている。

/『未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―』(菅谷明子著)

以前、このコラムでご紹介した当社内で運営中のWeb社内報に、今月新たなコンテンツが加わりました。その名も「推薦図書コーナー」とそのままなのですが、当社の全スタッフ200名が、過去に影響を受けたビジネス書や自己啓発本などを自由に投稿できる仕組みとなっています。社長の発案で、すぐに導入したのですが、早速幾つか推薦が挙がってきています。元々書棚(cf.こちらのコラムでご紹介しています)があるので、社費で購入したものや各自が持ち寄った本が並んでいたりしますが、この取り組みで当社スタッフの読書熱がさらに高まることを期待しています。

 

この推薦図書共有の取り組みですが、ただ漫然と「面白いよね」という共有ではなくて、もちろん普段の仕事に活かせる、個人の考え方や行動に対して影響を与えるような本を推薦してもらうようにしています。本田直之氏の『レバレッジ・リーディング』の中で、読書は「経済的行為」「投資活動」と表現され、「本を読んで得た知識をビジネスに生かすこと」で1500円で購入した本は最終的には15万円の利益を生むとも書かれています。実際のリターンの度合いを定量的に割り出すことは難しいでしょうが、確かに言われてみれば、世界中の経営者や第一線で活躍するビジネスパーソンの書かれた体験談やノウハウ、考え方等、言わば成功哲学のようなものが凝縮されたものが1500円程度で買えるとなると、最もリスクの少ない投資と言うのも頷けます。

ちょうど先週末にはリーダー向けの研修会なども開かれ、外部環境分析などを含めた自部署の戦略策定が各部門で行われたばかりで各自の知識欲も高まっていた矢先のことでした。当社でも自社の経営者や役職者が今までどのような本を読んできたのかということを興味深く調べては、実際に購入したスタッフもいます。こうした取り組みで得られる成果を、お客様へ対する提供価値へと変えていきたいと思います。

 

さて、推薦図書の話を差し上げたので以下は余談となりますが、関連の話題をしたいと思います。

コラムのタイトルにも起用した「電子書籍」。昨年よりその文字を何かと目にすることが多くなりました。先月には、米Appleが「iPad」を発表したり、書店に行けば、『キンドルの衝撃』『紙の本が亡びるとき?』など、出版関係者からすれば穏やかならぬタイトルの書籍が並んだりし始め、当の日本の出版界でも出版21社が電子書籍市場での連携強化を目的として、電子書籍法人を設立するといったリリースなども出されたのが印象的でした。また、最新号の「日経トレンディ」の特集は、「次世代ネットの衝撃 クラウド&Twitter」で電子書籍についても触れられており、 2010年は「電子書籍元年」とも言われたりしているようです。

cf.デジタル パブリッシング フェア2010 – 新設!「電子書籍端末 ゾーン」

http://www.digi-fair.jp/ 

実際私も、iPhoneに電子書籍リーダーの一つ、i文庫というアプリを入れています。このアプリは、インターネットの電子図書館青空文庫にアップされている、現状8800ほどの書籍データ(著作権が切れているもの)を無料で購読することができるものです。普通の文庫本と比べて目が疲れるといった意見も聞きますが、栞を挟む機能などがあったり、慣れると大変便利です。今までラッシュアワーの電車内で片手にかばん、片手に文庫本を持って、片手で文庫本をめくる技術を習得して何とかして本を読もうとしていたものが、こうしたアプリを使えば労せず読むことができます。複数冊同時読みといったことも、普通なら何冊も携行すると重たい書籍ですが、やはりiPhone1台で足りてしまいます。

この「青空文庫」――、『インターネット図書館 青空文庫』 (野口英司著)という書籍に青空文庫収録の作品が収録されたDVDが付いているのですが、刊行された2005年当時の作品数が4843作品と今では倍近くまで増えています。この膨大な作品データの入力や校正作業を行うのは、「青空文庫工作員」と呼ばれるボランティアスタッフの方たちです。

この5年間の間に著作権の保護期間が過ぎたものがこれだけ多くあるということでしょう。現在の日本の著作権の考え方(ベルヌ条約)では、保護期間が著作者の死後50年ということで、2010年は1959年までに没された作家の作品ならばインターネット上に公開可能ということになります。現在、JASRAC(日本音楽著作権協会)や鳩山首相などはこの期間を70年に引き延ばそうとする考えを持たれているようですが、著作権周りの話は日本の枠だけで考えられるものでもなく、大変複雑で難しいしがらみもあり、議論が割れています(cf.「著作権の保護期間」/Wikipedia)。

ちなみに、仮に保護期間が50年から70年に延長されるとどういうことになるかを分かりやすく有名作家を例に言えば、現在ネット上で無料で購読できている太宰治(1948年没)が2019年まで、坂口安吾(1955年没)が2026年まで見ることができなくなるということになります。

cf.

・「著作権保護期間70年への延長実現に最大限努力」鳩山首相が明言(INTERNET Watch,2009年11月18日)

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20091118_329858.html

・aozora blog: 青空の行方/なにゆえの著作権保護期間70年延長か(富田倫生氏運営,2004年12月7日)

http://www.siesta.co.jp/aozora/archives/001717.html

・ミッキーマウスは誰のもの? 著作権の「寿命」を争う裁判が最高裁で始まる – 米国最新IT事情(ITpro,2002年10月15日)

http://itpro.nikkeibp.co.jp/members/ITPro/USIT/20021012/1/

また、ニンテンドーDSの「DS文学全集」なども電子書籍としての役割を果たしていると思いますが、こちらにも青空文庫創設メンバーの一人である富田倫生氏が絡まれています。富田倫生氏は97年の「青空文庫」創設期には既に電子本に興味を持たれていた方で、 先の『インターネット図書館 青空文庫』の中で「青空文庫」について、「著作権の権利は尊重する、と同時に、保護期間を終えた著作物は、みんなが自由に、手軽に、広範囲に利用できるようにしていく。これが青空文庫の目的といってもいいだろう」とも言及されています。

【著作権制度の目指すもの】

青空のぬくもりは、誰もが共に味わえる。

一人があずかって、その恵みが減じることはない。

万人が共に享受して、何ら不都合がない。

/『インターネット図書館 青空文庫』(野口英司著)

 

以上のように電子書籍の台頭によって一層身近になった読書ですが、電子書籍やクラウド(・コンピューティング)のような発想は今に始まったものではありません。

電子時代の到来で、図書館が電子本を所蔵しパソコンでアクセスすれば利用できる「電子図書館」構想が話題になっています。(中略)実現すれば、利用者がインターネットを通じ、図書館を訪れることなく容易に、効果的に検索し、画面上で本を読むことができる日がやってくるのです。

/『トーハン週報4/2号別冊 新版 よくわかる出版流通のしくみ』(「しゅっぱんフォーラム」編集部 [株式会社トーハン 広報室内],1999年4月2日発行)

例えば、『新版 よくわかる出版流通のしくみ』という小冊子は99年に発行されましたが、2001年の「e-Japan戦略」に先駆けて上記のような「電子図書館」構想が練られていました。また、その後も以前のコラムで触れた、松岡正剛氏による「千夜千冊達成記念ブックパーティー」でも案内のあった「図書街」構想は、後に「図書街プロジェクトの始動に向けて」というシンポジウムにも発展しました。これはこれで、紙の本の流通に大変革が起こる話ですが、この辺についてはまた別の機会にでも触れてみたいと思います。

 

以上、余談が長くなりました。最後になりますが、先の『新版 よくわかる出版流通のしくみ』 の結びには、「ありとある出版物の総体がその国の知的生産活動として文化の重要な一翼を形成しています」と書かれています。江戸時代の出版ラッシュの際に日本人の識字率が高かったというようなことも言われていますが、私たちもWeb社内報の「推薦図書」の仕組みを活用して、良い本を紹介してスタッフ間同士で刺激し合い、結果、社内スタッフの人財力や組織力を高めていきたいと思います。