トクホ市場、1300億円減少──その理由とは!?|ヘルスケアビジネスの機会とリスク

投稿者:コンテンツ編集課

2010/08/31 10:05

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健康志向の高まりとともに拡大してきた特定保健用食品(トクホ)が、曲がり角を迎えている。日本健康・栄養食品協会が公表した2009年度の市場規模は、07年度比19%減の5494億円で、1997年度の調査開始以来初の減少となった。 以下略

引用:トクホ市場、初の減少──低価格志向強まる 09年度(asahi.com)
http://bit.ly/d0kXZB

今回は、以前コラムでも取り上げたトクホ(特定保健用食品)に注目。なんでも、ヒット商品を連発し、右肩上がりに急成長を遂げてきたはずのトクホ市場が、ここにきて縮小し始めたというのです。いったい何が起こったのでしょうか? 2007年度比で19%減、約1300億円減という数字は決して小さなものではありません。そこで色々と原因を探ってみると、思わず「そりゃそうだろうなぁ」と納得。売れていた商品がパタリと売れなくなっていったその原因とは・・・。

tokuho2009.jpg

(財)日本健康・栄養食品協会「~特定保健用食品の市場及び表示許可の状況について~」

そもそもトクホはなぜもてはやされていたのか!?

トクホ市場が縮小した原因を探る前に、そもそも「なぜトクホがヒットしたのか」を考える必要がありそうです。これについては、以前のコラムでも紹介したことがありましたが、トクホは健康への効用を示す表現(許可表現という)を政府から許可されている食品で、医学的な根拠があいまいな「健康食品」と区別して訴求できるメリットがあるのが大きなヒット要因でした。

また、類似商品に比べて高額であることさえも、有効性や信頼性の証拠として購入の一助になっていました。さらに食品(お茶・ヨーグルト・食用油など)であることから、日常的に健康を手に入れられるという「条件面」でもヒットの条件を満たしています。

参考:ヒット商品連発!|
ヘルスケアビジネスの鍵を握る?トクホ取得のメリット・デメリット
http://www.web-consultants.jp/column/matsuoka/2009/06/post-19.html

これらいくつかの要素が世間の健康志向の高まりに見事に合致し、次々とヒット商品を生んだわけです。私も例に漏れず少々高いなあと思いながらも「手軽に健康を手に入れられるなら」「これを飲むだけで中性脂肪の吸収を抑制してくれるのなら」などとトクホを 購入していたのでした。

トクホがヒットした3つの要因

・「行政に許可された食品=安全性・信頼感」
・「効果効能を謳える=健康効果へ期待感」
・「日常的に利用する食品群=手軽さ」

花王が「エコナ」全製品を販売自粛、トクホ返上へ
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090916/biz0909161656009-n1.htm

そんなトクホムーブメントのなか、業界に衝撃が走ります。花王の大ヒット商品「エコナ」シリーズに発がん性のある「グリシドール」という物質が含まれていることが発覚。これにより「エコナ」だけでなくトクホ全体への信頼感が大きく揺らぎ、 販売の自粛、トクホの返上に至ったことで不信感は一気に高まったのです。
「信頼性」の崩壊です。

確かに、私を含めた消費者は、トクホの許認可における具体的なデータを詳しく知っているわけではありませんよね。有効性や安全性を判断する術はなく、ある種盲目的にトクホを信頼していたといえます。盲目的な分、逆の影響も受けやすいというわけです。

しばらく利用してみたけど効果を実感できないという人も・・・

また、実際的なトクホの効果効能の有無はさておいて、医薬品に比べて機能が限定されているトクホを愛用したところで目に見えて健康改善がなされるでしょうか? 「栄養・休息・運動」を意識して、地道に努力していかない限り、なかなか上手くはいかないものです。

トクホを選択していた多くの消費者は、むしろ「栄養・休息・運動」を疎かにしていた人たち。疎かにしているからこそ、手軽なトクホは魅力的だったんです。

トクホを過信しすぎた一部の消費者は、健康改善への実感がなく、不景気も相まって費用対効果の悪さを感じ始めたのではないでしょうか。

消費者から「値段が高い」といった声が寄せられ、値下げに踏み切った「燕龍茶(やんろんちゃ) レベルケア」の例もあります。「機能と条件(効果と価格)」の崩壊が始まったわけです。

こうして「信頼・機能・条件」という3要素を失ったトクホは、逆風を受けながら徐々に市場を縮小し始めます。「デフレで安い一般商品に顧客が流れた、トクホ商品自体の低価格化も進んだ、だから市場が縮小した」と結論づけるのは簡単ですが、一旦失った信頼を取り戻すのは容易なことではありません。

今回のトクホ後退のニュースをみて、市場参入の難しさを改めて実感したのと同時に、健康食品の取り扱いや医薬品のネット販売など、諸問題に揺れる厚労省をはじめとする行政は、消費者の信頼に足りる基準をしっかりと提示し、審査を実行する必要があると改めて感じた次第です。

消費者の信頼を生む要素は何か
消費者のニーズに刺さる機能はあるか
購入のハードルを下げる条件を用意しているか

ということを改めて考え、市場動向やトレンドを意識すること。そして市場参入におけるメリット・デメリットを熟慮し、投資する価値があるかどうか(一過性ではなくロングセールスを記録するような商品になるかどうか)を判断すること。

さらに信頼や機能における基準を開示しておくことなど、トクホに限らずすべてのビジネスにおいて重要な視点であると感じています。こうした点を踏まえて最適なご提案ができるよう、兜の緒を締め直して邁進してまいります。

【編集担当:松岡】

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